星組トップスター礼真琴を中心とする『赤と黒』を4月5日(日本青年館ホール)に見て、礼が男役に必要な絶対条件の輝きオーラを放つスターだと再認識した。
フランスの文豪スタンダールの傑作小説を原作にロックミュージカルに仕立てた日本初演。主人公ジュリアン・ソレルは野心家の青年。愛によって転落する物語として著名な人物だ。富と名声を得るための野望、闘い、その間での恋、愛が眩しいように描かれる。礼には格好の舞台背景だ。
礼は、しかし、野心を抱いただけでなく、危うい繊細さの青年として登場してきた。歌唱場面のみならず、演技のほとんど笑顔を見せることが少なかった。胸に一物というより、悲しみを秘めた表情が却って魅力を感じさせた。
ナポレオンが消えた後のフランス。ジュリアンは貧しい製材業の家に生まれた。成り上がってやる!美しい青年は知性も備えている。女性には魅力この上ない。人妻も、娘も虜になる。礼にはそれが、あった。
赤は軍服、黒は僧衣を表している。当時の人民の野心の目標とする色である。一方で赤には燃える恋、黒は闇、死とも考えられる。礼は、そして、白と黒の衣装が実に似合う。
「心の声」「知識こそが武器」「愛か罠か」といった曲を歌う礼。階級社会下、下層をあざ笑う貴族への嫌悪、本当の愛情を求める渇望感。ギロチンの露と消えるラスト。頭髪の右側を刈り込んだ短髪が強い意志を感じさせて、清々しい。
加藤真美が担当した衣装が時代に合っており豪華で独創的。ジェロニモ役の暁千星が印象に残る。
スタイル抜群、声よし、甘い顔つき、よし。そんな中、2019年にトップスターとなって5年目。礼のオスカルが見たかった。
(令和5年4月23日)
宝塚OG2人を立て続けに見た。
東京・帝国劇場で開演した『キングダム』に美弥るりかが出演している。中国の春秋戦国時代に中華統一を目指した少年2人を主人公に漫画週刊誌に連載された超人気作品の初の舞台化だが、ダブルキャスト(梅澤美波)で出演の美弥は、山界に暮らす山の民を束ねる山の王・楊端和(YOTANWA)という役である。このキャラクターが登場人物の中でも異彩を放つ存在。
美弥らしい役柄だ。原作ファンなら既に承知だろう。楊は、実は男ではなく女性なのだ。様々な民を率いる王としての権威、迫力、戦闘能力などを備えている。美弥は2019年に宝塚歌劇を卒業したが、生徒の時から〝独自の個性〟と表現されてきた。そう、独特なのだ。他を寄せ付けない氷のような冷たさ、リアルではない人間の雰囲気。平凡とか一般的とはかけ離れた持ち味を発揮する個性がある。
登場場面は7回。1幕1回、2幕6回。1幕でようやく姿を見せたのが幕切れ直前。ここで圧倒的な存在感がある。5本の角が生えたような奇怪な仮面を付けていた。声は電子音。男の声に思える。仮面を取って見せた顔、まさしく女…。笑顔ひとつない怒りに似た、人を見下す表情。向かって来い、負けてたまるか。プログラムで「この人物の今までの人生の重みをしっかりと噛み締めながら演じる」と語っていた。その性根を出した。
2幕は大半がアクション、戦闘シーンだ。運動能力が抜群の男優の中で奮闘する。刀剣は二刀流。斬り、突き、振り回し、疾走する。山口祐一郎、壌晴彦、小西遼生、早乙女友貴ら飛びきりの個性を出した男優人に混じってしっかりと美弥は立ち位置を守っていた。
もう一人が北翔海莉。
東京・シアタークリエでの『CLUB SEVEN』だ。ゲストに宝塚OGを日替わりで呼んでいる。2月14日に観劇したのが北翔と音波みのりだった。
爆笑コントを演じる場面が多いACT1で、セーラー服姿の高校生の彼女は不良の男子生徒を相手に怒鳴りつけるわ、罵声を浴びせるわ、足蹴にするわ、一歩も引かないやんちゃ娘。と、思えばその中の一人に恋心を抱いている可愛い少女でもある。これが面白い。登場した時から大拍手、大笑いが起きた。
「家政婦の牟田」では母親役、「監督シリーズ・ゴッドマザー」ではアドリブ連発の共演陣と一緒に思わず吹いてあるいはトップスター時代で同じ星組だった後輩の音波とは、ドレスの衣装のスタイリッシュな姿になって歌って、踊って6年ぶりの共演を楽しませた。
プログラムのアンケートで好きな食べ物を「ローストビーフ、カツサンド、ソース系」と答えていて、いかにも肉食系。そして自分の長所について「すぐ動く」と分析していた。パワフル系コメディエンヌでもあった北翔を新発見したのである。
(令和5年2月16日)
柚希礼音、美弥るりかを中心としたショー・プレイ『ベルベル・ランデヴー』(シアタークリエ)は一風変わっていた。女優のみで7人が主に配役。確かにショーであり、プレイでもあり、ミュージカルではなく、ストレートプレイでもない。だが、ストーリー性は貫いていた。
世界中から集められた女たちは何者かは明確ではない。だが、変わりたい、成長したい、美しく生きていきたい。そんな夢や欲望を抱いているらしいのだ。
「ベルベル・ランデヴー」という映画を1本撮影せよ。オーダーを受けた彼女らは、サハラ砂漠に建つスタジオに集まった。あるのは砂と空。各自、テーマを見つけて撮影するしかないのである。
柚希の名はベラッジョ、美弥はハロッズ。相性も性格も違う2人。何かと言い合う。激しく争う。犬猿の仲なのだ。
星組のトップスターだった柚希は、さすがに重み、貫禄がある。退団から7年。舞台活動を重ねて、一番の存在感を出した。対抗する美弥は役柄が嵌まった。
独特の雰囲気は退団して3年目でも変わらない。特に顔の表情。目に特徴がある。反抗的で、毒舌の女。ヘソ出しの衣装、また、半パンツの軽装は珍しく、新鮮だった。
トキオを演じた鈴木瑛美子のパンタロン模様がステキ(衣装・中村秋美)。派手でなく、落ちついていて、オシャレ。各人のスタイルが個性的だったのも印象に残った。作・演出が小林香。女性による女性のための女性らしいスタイリッシュな異色の舞台となった。
(令和4年12月13日)
久しぶりに宝塚歌劇らしい舞台に出会った。東京宝塚劇場の月組公演『グレート・ギャツビー』である。
私が言う宝塚らしさとはこうだ。愛の物語であり、華麗なステージであり、ビジュアルに優れており、男役トップの魅力に溢れていなければならない。
知る人ぞ知るF・スコット・フィッツジェラルドが‘ジャズエイジ’と言われた1920年代を背景に描いた原作。ジェイ・ギャツビーとデイジー・ブキャナンの禁断の愛の物語だ。
担当したスタッフは松井るみの装置、有村淳の衣装、勝柴次朗の照明、そして羽山紀代美らの振付。華麗で美しいステージを作り上げていた。
ギャツビーは月城かなと。トップ1年目。最初、向こう岸の屋敷を見ている時は白、銀橋で「デイジー」を歌う時は青、「朝日の昇る前に」では赤で「もうすぐ朝の日が昇る」と歌う。さらには黒に着替える。それぞれの場面での演技で原色の衣装が映えた。
台詞はメリハリが効いたし、「朝日の昇る前に」では甘い歌声、デイジー・海乃美月と二人だけのダンス場面が少ないものの息が合って、良し。野心的で一途な男と言える役作りだった。
小池修一郎の演出は奥行きを生かして立体感があった。特に群舞に効果的。1920年代の空気が感じられた。さらに、月組には男役が揃っている。そして月城の月、海乃美月の月、鳳月杏の月、プラスは輝月ゆうま、光月るう、夏月都。月がとても光っていた。
(令和4年10月3日)
柚希礼音自身がプログラムで明かしているように母親役は何度か演じているが“普通の母親”は難しいのかもしれない。
ミュージカル『カラー(COLOR)』(新国立劇場)で柚希は母親葉子を演じた。息子が一人いる。その息子草太は大学1年の時、バイク事故で重傷を負い、命は助かったものの記憶喪失となり、食事の例えば食物の味さえ覚えていない生活になってしまった。
事故直後、生命の危険の時、「どうか助けて!」と天に向かって祈る母親の愛情から始まり柚希は不安、絶望といった状況と闘い、息子を激励し、一方で彼の理解に苦しむ芝居を続けた。
葉子は白い割烹着で黙々と食事を作る主婦である。ゴージャスでもパワフルでもない一般家庭の母だ。ちえちゃんこと柚希にしてみれば、初めての役柄、挑戦といえるだろう。持ち味であるスケールの大きい演技を封印するのである。
浦井健治が扮した一人息子の草太とは、最初、姉と弟のように見えてしまった。しかし、「真っ直ぐに生きていきなさい」と、子供の頃の草太に歌って言い、母と息子の生活が書かれた本が出版される時期になると、葉子=柚希の“母性”が色濃く出てきたのだった。彼女は自分の「色と私」についてこう述べていた。
「言葉では表せない色になりたいです。夕焼けから日が沈んだ後のグラデーションも素敵かも」。母親の色と言えば、私などはお味噌汁の茶色だろうが、舞台での彼女は心の広い海のブルーにも見えた。確実に、ニッポンの母になっていた。
(令和4年10月3日)
フランスの劇作家ロベール・トマの原作を板垣恭一が上演台本と演出を担当した『8人の女たち』(サンシャイン劇場)は、元宝塚歌劇の男役トップスター5人とトップ娘役3人という女優8名による上演だった。
即ち入団順に並べると久世星佳、真琴つばさ、湖月わたる、水夏希、夢咲ゆゆ、蘭乃はな、珠城りょう、花乃まりあが大邸宅に閉じ込められて密室状態になった室内劇である。
月組出身の3人を始め星組、雪組、花組のOGたち。同窓会というか卒業会といった風だ。結論から書けばドタバタ・スリラー喜劇になった。
最初に登場したのが真琴。車椅子に乗り、周囲をキョロキョロと見回して本棚から回転して出した酒のワインかウイスキーかのボトルの酒をこっそり飲む。車椅子に座ったままの演技である訳はない? 物語を知っている方はともかく、初見の観客は不思議に思うだろう。その通り、真琴は車椅子から離れると軽やかな芝居を見せたのである。
また、種を明かせば、1幕の切りで古参メイド役の久世が銃撃され、倒れ込む場面がある。もしかして、これも? 死ぬ訳はないな。
当主である実業家マルセルがベッドの上で背中から刺殺されたらしい事件を巡る物語。妻、長女、マルセルの妹やメイドらが疑心暗鬼になっていて、それぞれの過去、秘密を暴露し合うのだが、物音が聞こえるたびに「ウワ~ッ」とか「キャア~」などと矯正を発して大騒ぎ。
そんな場面の連続の中、妻ギャビーの湖月と妹ピェットの珠城は相変わらずステキなボディで、湖月はコメディエンヌの素養を発揮し、久世の演技派ぶりが印象に残った。
(令和4年10月2日)
花組が東京・池袋の東京建物BRILLIA・HALLで上演した『冬霞の巴里』で、一人の楽しみな生徒に気付いた(12日所見)。
永久輝せあの責任公演。指田珠子・作・演出。古代ギリシャの作家アイスキュロスの悲劇「オレステイア三部作」をモチーフとしたのが異色であり、挑戦的。父を殺された弟の青年オクターブが永久輝、姉アンブルが星空美咲。復讐劇である。
19世紀末の貧困に喘ぐパリ。そんな街中で新聞売りの少年シャルルを演じたのが美空真瑠。よく動き回り、貧しくとも明るく生き、働き、必死に光明を見出そうとする可愛い少年の姿を映し出していた。そこがいい。
下宿の食堂の場面では椅子を片付けたり、整えたり、テーブルを運び出したり、仕事が多い。演技では常に笑顔を絶やさない。踊る場面ではキビキビと躍動した。台詞の声がよく通る。長身ではないものの、どうも男役らしい。好感が持てる。
新聞記者に扮した主役の永久輝は美しい青年である。スラリとした細身での立ち姿が魅力。宝塚伝統の正統的な男役。演出の指田がプログラムの中で
「秘めたる凶暴性を見たくてなりません」と、メラメラと復讐の炎を燃やす演技を求めていた。大半が笑顔を見せず、仇を姉と共に探り、そしてピストルで撃ち殺す場面には、ややショックを受けた。主役のスターが殺人を犯すのは歌劇では極めて珍しいからだ。
永久輝のオクターブの周辺に絡むシャルルの美空。それを秘かに微笑んで見ていた。
(令和4年4月20)
美弥るりかの“中性感”が際立っていた。さらに加えるなら透明感、寂寥感。その不思議な個性は、他になかなか思い出せない。
吸血種ノラ・ヴェラキッカを演じたミュージカル『VERACHICCA』(作・演出・未満健一)で主演。「人間愛奇劇のように-ロマンチック」な世界、と未満がプログラムで話しているが、劇画から抜け出してきたかと迷わせるキャラクターが、何ら違和感はなかった。それが個性だ。
松下優也のシオン、愛加あゆのジョーという遠縁、古屋敬多のカイは異母弟、さらに新しい養子のキャンディは平野綾。ノラは9人の男女に愛されている絶対的存在。ただそれは「愛して欲しい」とする強烈な欲望だから、厄介だ。私見では「愛」は与えるもの、与えられるもののどちらか、あるいは両方ではないか。吸血種は血を求める、換言すれば愛を求めるのか。
美弥は立ち姿の美しさ、凛々しさ、そして白や赤のスタイリッシュな衣装で見せつけた。歩く姿がまたファッションショーのモデルのよう。2019年6月に宝塚の月組を卒業したが、生徒の頃から演技力は抜群だった。巧いだけでなく印象に残る芝居を続けていた。それにしてもここまで「愛」を求めるのはなぜだろう。もし再演があるなら、もっと明確な場面、台詞を加えて欲しい。
(令和4年1月24日)
雪組トップ娘役だった咲妃みゆが宝塚歌劇団を卒業したのは2017年。その翌年にミュージカル初出演したのが『GHOST』、主役モリーだった。その『GHOST』がシアタークリエで再演された。今回は桜井玲香とのダブルキャストだが3月9日に咲妃のモリーを見た。
彼女の持ち味は何と言っても素晴らしい歌声。在籍時と一向に変わっていない。伸びのある、透き通るようなソプラノ。冒頭の「今ここで」も、ソロの「ウイズ・ユー」にしても耳障りが心地よい声が響いてきた。モリーという女性は、浦井健治が演じた恋人サムを突然、暴漢に撃たれて失ってしまい、生きていく意味をなくしてしまう。胸像などを作る芸術家なのだが、一番大切な人を亡くした孤独な姿を見ると私などは目頭が熱くなって仕方なかった。
モリーもサムもまだ若い世代だ。長い長い未来、人生が待っているのだ、と考えると、若い人の死は辛い。いや、年齢に関係なく、最愛の人を亡くす悲しみは同じだ。
いくつものブロックを自在に移動させたスピーディな場面転換、それにピタリと合致させたこちらもスピーディな場面の連続。桜木涼介の振り付けがまた最高。独特で、多彩な振りはワクワクさせる。演出ダレン・ヤップの才能を痛感させたが、ただし、一つでもいちゃもんを付けたいのが私の悪い癖。やたらとチュッチュ、キスを2人はするのだ。老体には気味が悪い場面だった。
それにしても、霊媒師オダ・メイを演じた森公美子には圧倒された。初演を遥かに超えるパワフルな歌声、コメディ感覚であった。
(令和3年3月10日)
2月22日に日本青年館ホールで見た音楽劇『プラネタリウムのふたご』に宝塚歌劇OGの春風ひとみ、壮一帆が出演していた。
春風が目の見えない老婆、都会の人の2役、壮は母親、女教師、ボンネットの女性、都会の人の4役である。
星の見えない村はプラネタリウムで拾われたふたごの男の子がいる。一人は手品師、もう一人は語り部という役。実にファンタジックで多用される映像が美しい。この舞台で舌を巻いたのが春風だった。
目が見えるようで見えないようで、ボケているようで、ところが頭脳は冴えているようで。腰を曲げて歩くかと思えば、男の子を叱責する声は力強くて明晰。自在の老婆の芝居を見せつけられた。多くの共演者の中で彼女だけ質の高い演技に思えた。そりゃそうだ。宝塚の現役時代から実力派の娘役だったのだから。演技のキレが良いのである。
ライフワークの一人ミュージカル『壁の中の妖精』を2019年5月に見たし、帝劇でのミュージカル『天使にラブソング』でのシスター、メアリー・ラザールスには感服させられた。パワフルで、体全体を回し動き、歌声も一向に衰えていないどころか、その存在感を誰よりも見せた。調べてみると60歳ではないか。こんな実力派のレガシー女優はいない。
壮は何と言ってもスタイル抜群。美貌の母親になっていた。
(令和3年2月28日)
約1か月半も遅れた宝塚音楽学校の第108期新入生が6月5日に入学した。ようやく入れたね、おめでとう!
入学式は異例づくし。新型コロナウイルス感染の影響をまともに受けてしまった。
①当初の4月17日の予定が大幅に遅れ②会場は宝塚大劇場のロビーと言うのも初めて③校歌斉唱がない④保護者が最少人数⑤新入生の名前紹介で呼ばれても発声せずに起立⑥国歌斉唱もない⑦本科生から校章を付けてもらうセレモニーはない⑧記念撮影は距離を開けて並ぶ⑨式後のインタビューは書面のみ⑩本科生の歓迎挨拶はビニールシート越し…。
100年に一度とも言われる大被害のコロナ禍。小林公一校長の挨拶通りだ。
「入学した時から既に注目される期生になったということです」。
過去には大量の受験率になったベルばら世代とか、阪神淡路大震災後などの入学式も注目された。しかし、今年の108期生は将来、もしかすると〝コロナ世代〟と呼ばれるかもしれない。
新聞に載った40名の記念撮影の写真は感動的だった。107期生の2019年では、並ぶ間隔は肩が触れ合うほど近い。そして、最前列の1列目が10人、2列目9人、3列目8人、4列目7人、最後尾の5列目が6人で計40人。今年は同じく1列目が8人、2列目7人、3列目8人、4列目7人、5列目が6人、そして6列目が4人で計40人。見事に並んだ。悲しくて泣きたいだろうに、笑顔は輝いていた。
初舞台2022年の春。108期生は合格発表も入学式も決して忘れられない、と思う。でも、姿勢正しく並んだ綺麗な記念写真。彼女たちの初舞台のラインダンスはきっと、清く、正しく、美しく、そして明るく、楽しく、元気に違いない。
(令和2年6月6日)
宝塚歌劇団を卒業したOGを起用する阪急電鉄の新たな子会社「タカラヅカ・ライブ・ネクスト」が設立されたという。
OGたちは現役を卒業してからも多方面で活躍した豊富な経験を持っている。舞台、テレビ、映画、ホテルのショーなどその蓄積を利用しない手はない。
この1月、小川理事長は自分の初夢を引用して2025年を目標にOGを集めた新しい組の“夢組”を創立する計画を明らかにしたことは既にこの欄で書いた。新会社はショーやコンサートなどのプロデュースに加えてマネジメントも手掛けるらしい。
これまで現役生徒とOGがコラボになったショーやイベントはあった。だが、例えば専科の轟悠と鳳蘭、太地真央、黒木瞳、麻実れいといったトップスターだけでなく、ピックアップした現役生徒とで編成したミュージカルも見たくなる。ファンにすれば自分と青春時代を伴にした多くのスターが同時に見られるとなれば、魅力的な活動だろう。新たな観客動員にも繋がる。
今年は五輪イヤーを意識した企画にすると語った小川理事長。五輪は来年に延期となった。通常公演がいつから再開できるか。それに向けて次々とアイディアを提言して欲しいものだ。
(令和2年4月28日)
真風涼帆、星風まどか、芹香斗亜3人のパフォーマンスで始まった宙組公演『フライング・サパ』(作・演出・上田久美子)の2月27日の制作発表会では「世界観」と言う表現がメッチャ飛び出したのには驚いたものだ。
最初に気付いた異例さは中井美穂が司会進行の会で、発言者が先の3人と演出の上田。司会の質問にそれぞれが答える形式が約40分続いた。
上演が赤坂ACTシアターで期間が3月30日~4月15日。上田によればこの作品は芝居。ミュージカルでもショーでもない。歌唱が少ないそうだ。事前に公となったのはポスター、歌劇団のホームページくらいで、その中身はほとんど明らかに出て来なかった。また、発表会でも物語の内容が制限されており、生徒3人さえ戸惑ったのが気の毒なようだった。それも上田の注文。謎めいた内容、不明確さをあえて逆に“売り”にしているのでないかと思える。
配役は真風がオバク、星風がミレナ、芹香がノア。時は未来のいつか、場所は水星(ポルンカ)。人物には過去を消された男、記憶を探す女、そしてクレーターの「SAPA」に侵入する巡礼たち…。
真風はこう話した。「稽古場はイマジネーションとの対決の新鮮な日々。記憶を失った兵士、趣味はコーヒーを飲むこと。自分と近い所はない。男役と近いような、そうでないような。アンニュイな感じで喋る」。芹香によれば真風は「無駄な動きも少ない。全体に凄い、けだるい感がある。(星風は)ハムスター的な可愛さがある」。皆、奥歯に物が挟まったような発言で、世界観をどう表現するかに格闘している様子が浮かび上がった。SFでもある作品。見てのお楽しみというのが答えだった。
【写真】右/真風涼帆 左/星風まどか C宝塚歌劇団
(令和2年3月1日)
東京宝塚劇場での宙組公演『イスパニアのサムライ』と『アクアヴィーテw!!』の上演後の17日、都内ホテルで宝塚歌劇新年互札会が開かれ、小川友次・宝塚歌劇団理事長が挨拶した。
昨年は本公演で観客動員が280万人。大劇場では立ち見が多く出た結果、103.3%という好成績。東京は連日満員だった。そして地方公演などを含め320万人動員の人気だったという。
面白かったのが小川理事長の初夢。本年は東京五輪を意識した公演を目標にするが、夢の中に某OGが出てきたそうで、五輪後の2025年にはOGと現役がコラボする新しい組、“夢組”を創設するという初夢だ。
慶長の江戸期、スペイン・アンダルシア州の派遣されたハポン(日本人)の活躍を描いた『イスパニアのサムライ』で、主役の蒲田治道を演じたのが真風涼帆。長い髪を大きく乱して闘う殺陣や超二枚目の和物が爽やかだった。
(令和2年1月20日)
星組のトップに立った礼真琴、舞空瞳の“ミニお披露目公演”、フレンチ・ミュージカル『ロックオペラ モーツァルト』が東京・池袋に新設された東京建物BrillaHALLのこけら落としシリーズとして12月3日に開幕した。
その初日に観劇。すでに梅田芸術劇場での初演を経ており、40人の生徒が一丸となった舞台。21歳からのモーツァルトを演じた礼、恋人から妻となったコンスタンツェの舞空はやはり初々しい。
1幕2場、下手の奥に座っていた礼は、勢い良く舞台中央へ走り込むという登場。若さ、勢い、さらに自由な世界で持て余すような才能を開花させたい夢が詰まっていた演技。
歌、ダンス、芝居。まず歌-。人類史上、最高の音楽家とされるモーツァルトを、笑い声を何種類にも変えながら「道を開けろ、僕が通る」では高く、強い調子の歌唱。ダンスはとにかく動きが速い。回転したり、足を高く上げたりとキレの良さが素晴らしい。自分を育てたものの自制を求める父親への反抗、しかし子供としての愛情を強調していた。それにしても、まだ若いというか、少年のような演技(未熟という意味ではない)に見えたのである。
コンスタンツェは、ノー天気で考えが幼い娘と思えるが、舞空には嵌まり役と書くと叱られるかしらん。まあ、奔放な芝居で美しさはピカ一。
カーテンコールの挨拶の礼。常に全力、先頭に立ってメンバーを引っ張るダンスシーンだったと同様に、3階席まで届くように両手を広げて応援を願う姿が新鮮だった。
(令和元年12月14日)
KAAT神奈川芸術劇場で10月11日に開幕した田渕大輔作・演出『ハリウッド・ゴシップ』は彩風咲奈を中心にした雪組メンバー28人と専科2人を加えた30人によるミュージカル。1920年代のまだトーキー時代のハリウッドで映画スターを夢見て、立ち上がる青年が主人公だった。
その青年コンラッド・ウォーカーを演じた彩風が将来性豊かな男役のトップスターを確信させる出来だと思ったのは私だけだろうか。
「第2のジュリー・クロフォード」を発掘するオーディションを受け、彩風が最初に「ずっと憧れていた」を歌い出すと、小首をちょっぴり傾けた立ち姿にまず魅了される。そして、笑顔にあどけなさが残り、オトナへと向かう青年ぶりなのだ。
演出の田渕がプログラムに「光と影を合わせ持つような彼女の芝居のイメージ」と書いていた場面を実感したのは、2幕のダウンタウンのダイナーで自分の生い立ちを語る芝居である。潤花のエステラに向かって話す。それは時に哀しみを浮かべ、遠い過去を思い、また幸せでもあり、夢を目指す心境を語った。光と影を一瞬で交互に演じていた。
初日、カーテンコールで長い挨拶をした。足元が悪い中、見てくれたこと。稽古場でメンバーたちがそれぞれ役と向き合っている姿を見て、自分の不安を見つめ直したこと。台風の影響で12日の公演が中止になったこと。雪組のトップ、望海から託されたことを観客に伝えた。今後、彼女にとって自信となる公演だろう。千風カレン、早咲まこ、愛すみれ、彩凪翔、梨花ますみが印象に残った公演だった。
(令和元年10月13日)
作・演出の原田諒が轟悠に与えた役がゲバラである。プログラムで彼が書いた一文に目が光った。
『宝塚男役の限界に挑戦できるか』。これは原田自身と轟に向けた表現だろう。限界とは何を指すのか。
日本青年館ホールで上演された月組のミュージカル『チェ・ゲバラ』はそれを体現できたのだろうか-。
轟は第1幕1場で最初に医者として出た時、スーツの両袖口をたくし上げたスタイリッシュな姿。第11場、メキシコからキューバに潜入した場面だが、ここから口髭をはやし、軍服、黒いベレー帽の芝居が逞しく、革命家へガラリと変身した人物になった。
2幕になると1場から顎鬚も生やしていた。工業大臣になって大演説をする場面では強く激しくパッションが伝わる。この激しさを出せるのは今、彼女くらいだろう。まさに、ゲバラだ。葉巻をくわえた場面、そして3発の銃弾を浴びて処刑となる死。11段の階段を上がっていく後姿も堂々としていた。
原田の演出が狙っていたのは恐らく宝塚歌劇では極めて異例の革命家を主人公とし、その自由な精神、圧倒的な行動力、「愛」を貫いた人生を演じ切れるスターなのだろう。轟はその壁を乗り越えた。
フィデル・カストロを演じた風間柚乃はポケットに手を突っ込んでいる演技が多いのは気になる。轟はそんな定型をほとんど、しない男役。見習うといい。
(平成31年8月15日)
3月22日に渋谷のシアターオーブで開幕した雪組のブロードウェイミュージカル『20世紀号に乗って』は原山諒が潤色・演出の日本初演。1978年のブロードウェイでの初演でトニー賞5部門を獲得した作品だ。
シカゴを出発し、ニューヨークまで16時間で行く豪華な特急列車が舞台。
望海風斗が演出家兼プロデューサーのオスカー・シャフィ、真彩希帆がその元恋人で、映画界に移ってハリウッドの大スターになったリリー・ガーランド。トップ2人がとてもいい空気感で絡んだが、何より真彩に魅了された。
歌唱力の高さ、その美しい声だけでなく、ドタバタ喜劇の要素を求めた演出に合わせたコメディエンヌぶりを発揮した。『ひかりのふる路』のマリー・アンヌ、『ファントム』でのクリスチーヌ・ダーエに続く好成績だ。
雪組は男役が粒揃いなのを再認識した。ブルース・グラニットの彩風咲奈を始め、マネージャーのオリバーを演じた真那春人、宣伝担当オーエンの朝美絢は長身、そして長い足がステキで背広姿が舞台に映えた。もちろん将来のトップ候補だ。
さらに2017年からトップに立った望海。口髭を付けて苦み走った表情、一方ではしゃいだ芝居も見せた。華やかさと渋さも身に備えてきたので堂々とした男役トップになっていた。
ニューヨークに到着し、セントラル駅で登場した20世紀号の先頭車部分。その前に立ったトップ2人にコンビとしての自信が浮かんでいた。
(平成31年3月26日)
既に今秋、サヨナラ公演が発表された星組の紅ゆずるが主役カールを演じた菊田一夫の名作『霧深きエルベのほとり』(東京宝塚劇場、3月24日まで)を見た。
1963年(昭和38年)の月組初演でカールは内重のぼる。56年前だが以来5回上演され、最後の1983年(同58年)では花組の順みつきのカールが36年前のこと。上演が途絶えていた作品だ。
ドイツ北部のハンブルグは詩情漂う町。菊田は、親の反対を押し切って上流階級の令嬢と船員あがりの青年が恋に落ちて結婚したという新聞の三面記事を読んだのがヒントになったという。
物語はその船乗りカールと綺咲愛里が演じた令嬢マルギットの恋と別れが中心。紅は幕開けで一人、船上で故郷エルベを想う主題歌『鴎の歌』を歌う。『鴎よつたえてよ、我が心いまも君を愛す』。続くビア祭は80人を越える男女の群舞。圧巻だ。マルギットに求愛する場面はシャイな一面がおかしい。紅の持ち味だ。マルギットの許嫁フロイアンとの対決では力強く怒りを爆発させる。そして船上で主題歌を思い入れたっぷりに歌う幕切れ。水夫の恰好がステキだ。
紅といえば『ベルリンわが愛』のテオ、『スカーレットピンカーネル』のパーシヴァルや和物も演じてきた。今回の舞台ではトップ男役としての堂々とした姿に目を見張った。自信が演技にも出ていた。
今年の歌劇団のテーマを小川友次理事長が温故創作、リボーン(再生)と公表したが、潤色・演出の上田久美子は懇親会で今作とは「無関係です。偶然なんです」と過去の名作の再演とは結び付かないとキッパリ話したのが若い演出家らしい。ラストの場面だった主題歌の場面を、幕開けで加えたり、工夫した今回の上演。「今の若い人は泣くことを求めてきていると思う」と上田は語った。
結婚も破局なる主人公の2人。10月の東京のサヨナラ公演はハッピーエンドの作品になるのだろうか?
(平成31年2月25日)
宝塚歌劇105周年の今年のテーマは〝温故創作〟だという。小川友次理事長によれば勘の名作を掘り起こし、リボーン(再生)させるとか。1月18日に開かれた新年互礼会ではこれに加えて、作品のクオリティーをさらに上げていきたいと挨拶した。
東京宝塚劇場での今年のスタートは雪組のミュージカル『ファントム』。主役ファントムが望海風斗、〝思い姫〟クリスティーヌが真彩希帆というコンビ。宙組による日本初演の2004年が和央ようかのファントムで、花組の春野寿美礼、同じく花組の蘭寿とむに続く望海は4代目ファントムだつた。
今回は潤色・演出が中村一穂で、装置を大幅に一新、また舞台映像を多用するなど演出も変えて従来とは全く新しい作品に生まれ変わった。
(平成31年1月27日)
宙組が誕生して今年20年という。その記念公演が『白鷺の城』『異人たちのルネサンス』2本立て。新しい組の名称を考えた思い出としては「虹」とか「夢」を想像したが、有楽町の仮設劇場でスタートした宙組には、その後も透明感がある組だという印象を持って来た。
さて、『白鷺の城』だが、脚本・演出の大野拓史によれば見取りのバラエティショー形式と舞踊詩形式の両方を組み入れた日本物レヴューになった。宙組は日本物の上演が少ないそうで、言われてみれば確かにそうかもしれない。
全7場という短時間作品。幕開けと最後に総踊りを構成。主役の真風涼帆は陰陽師の幸徳井友景、安倍泰成など5役を演じ分けた。楽しみだった専科の松本悠里は葛野の葉、富姫、芸妓で3場面のみ。しかし、それにしても日本舞踊の名手は常に怪しい魅力を発散した。驚異的だ。
『異人たちのルネサンス』はオリジナルミュージカル。天才レオナルド・ダ・ヴィンチの青年期を真風が演じた。世界的な代表作の肖像画「モナリザ」が最後の「メディチ宮」に出てきた。モデルはかつての幼馴染みカテリーナと重ねたらしい。
「君の中の少女」-。ダ・ヴィンチの青年期にはナゾが多いという。愛と苦悩のダ・ヴィンチ。彼も恋する一人の青年だったのか。日本物への挑戦とルネサンスという変革を目指す宙組を見た。
(平成30年11月29日)
ミュージカル『エリザベート・愛と死の輪舞』の初演は1990年。あれから22年を経た。東京宝塚劇場で上演中の月組公演は通算10回目。月組では3回目9年ぶりだ。
振り返れば月組第1回の2005年は彩輝直が黄泉の帝王トート、瀬奈じゅんがエリザベート、2回目の2009年は瀬奈がトート、凪七瑠海がエリザベート。そして今回は珠城りょうがトート、愛希れいかエリザベート。愛希は2002年にトップに立ち今回がサヨナラ公演となった。公演のたびに主演、演出が変化してきた。
今公演で目立った変化と見えたのは主に3場面あった。第1幕2場で幼いシシイ、後のエリザベートが父親に憧れて「パパみたいになりたい!」と歌った次の3場。かつて、登った木から落下するシーンを映像で見せたが、今回は渡るロープから足を踏み外して落ちた。以前の映像場面は楽しめたのだが…。
2幕5場・運動の間。病を得たエリザベートは夫のフランツ・ヨーゼフ皇帝から梅毒を移されたショックで寝込んだ上演があった。ところが今回はトートから渡された写真を見る。娼婦と寝るフランツに対して裏切られたという衝撃を受ける。これもどうだろう? トートはセコイ手段を使ったものだ。
エピローグは舞台中央の四角形の装置から大量のスモークが流れ落ちる。その中でエリザベートはトートと抱き合い、昇天するように生命を終えていった-。棺の上に置かれた小階段で幕となる上演もあったつけ。
愛希は演技の質が高まり、珠城は「愛」を迫るトート。ルドルフの暁千星が初々しく、スター候補になった。それにしても一路真輝のトート、花總まりのエリザベートという初演が歴代のベスト1でしょうな。
(平成30年11月1)
月組の珠城りょうが10代目のトート、愛希れいかが9代目のエリザベートを演じるミュージカル『エリザベート・愛と死の輪舞』が8月24日から宝塚大劇場、10月19日から東京宝塚劇場で上演されるが、5月8日に制作発表会が開かれた。
例によってパフォーマンスから始まり、まず愛希が純白の美しいドレス姿でありのままの自由を求めるヒロインを歌った。今公演で退団する彼女は見事な高音の美声を響かせれば、黒の衣装、3色に染めた長髪かつらの珠城が「最後のダンスは俺のもの」と、妖し気な死神を披露した。
潤色・演出の小池修一郎は大幅な演出の変更ではなく、主演2人が作り出す個性を期待するコメント。これまでの主演コンビが正攻法や古典的な取り組み、あるいは正反対に独創的、新しさで挑んでおり、今回の2人が稽古からどう見せるか注目するようだ。
珠城はトート役を知らされた時、「正直驚いた。役者冥利に尽きる。今の自分、今の月組にしか出来ない『エリザベート』を作りたい」と話し、トップスターとして4作目の1期下の愛希とは「心をぶつけ合ってやってきました」。二人で最後の大役に一心同体を強調した。
一方の愛希は、この役、この作品への出演が夢だったという。「ウ~ン、何でしょうか。何というか」と、抱負を語るにも嬉しさや動揺を隠せない。「私しか出来ないエリザベートを」と、口を開いたが、それは少女らしさを大切に演じることらしい。というのも、好きな場面と曲目を挙げた時、「パパのようになりたい」という冒頭の少女時代のシーンを実際に歌った笑顔が示していた。
2人によるこれまでで最高の作品になるのを期待していると話した小池のように、フレッシュなコンビになりそうだ。
【写真】珠城りょう(左)、愛希れいか(右) C宝塚歌劇団
(平成30年5月24)
花總まりがカルメンとあれば見逃す手はあるまい。抜群の姿態、彫刻のような美しい顔、そして鈴を転がしたような歌声。さて、演技は?というのが私の見方であった。
東京芸術劇場でのミュージカルロマーレ『Romale・ロマを生き抜いた女カルメン』である。
民族の誇りに生きる女カルメン。ロマ族とはジプシー。花總は1999年の『激情-ホセとカルメン』以来19年ぶりのカルメン役。女工カルメンと貴族出身の衛兵ドン・ホセとの恋、ロマ族と白人社会との対立を描く。
7段の大階段から下りて来る最初の出。赤い衣装が似合う。フラメンコなどいくつかのダンス。それにしてもよく笑う女だが下品な笑いも見せた。「エリザベート」の気品とは裏腹な役で「あたい」を連発する。歌は今ひとつだったが、激しいラブシーン、セックスシーンもあった。お姫様タイプとは違う
役柄に挑戦させたい、というのが演出の狙いらしい。
さて、観劇した3月29日にアフタートークショーが開かれた。
初共演の花總と松下優也の二人。驚いたのは帰る人がほとんどいなかったことだ。
2月初頭から1か月と20日に及ぶ長い稽古だったという。カルメンという役について花總は「本当に分からない人なんですよ。謎というか、皆様の想像の中で変化する女性だと思う」。カメレオンのようらしい。
「一日が終わったら家でウ~ンと考えてしまうんです。同じ台詞で毎回、気持ちが違うところある」と語った。苦戦する花總、新たな女優としての可能性への挑戦である。
(平成30年4月17日)
2月に宝塚歌劇のミュージカル2作を見た。一つは東京宝塚劇場での花組『ポーの一族』、もう一つはACTシアターでの星組『ドクトル・ジバゴ』だ。
最初に専科から轟悠を主演に迎えた『ドクトル・ジバゴ』から。
原作であるパステルナークの小説は文学史上の名作だがオマー・シャリフが主演した1965年公開の映画が良く知られる。脚本・演出の原田諒はよくぞ舞台化したものであり、歌劇団もよくぞ認めたものだーというのが正直な実感だ。これは褒め言葉である。
1幕を終えた幕間で中年女性がモバイルで「暗いのよ」などと感想を誰かに話していたが、少しも暗くはない。革命前夜とその後のロシアを背景とした中、医師で詩人のユーリを演じた轟は主人公を存在感たっぷりに骨太の演技で舞台を引っ張った。凛とした立ち姿、口髭を生やした知的なたたずまい。そして舞台中央で倒れて死んでいくエピローグ。ミュージカルではあるが、轟の芝居だけでなく宝塚歌劇で久しぶりの硬派の作品に仕上げていたのを認めたい。力作である。
『ポーの一族』は萩尾望都による人気漫画を、小池修一郎が脚本・演出で満を持して舞台化した。小池の力技である。
主人公エドガーは永遠に生き永らえるバンパレラの一族だ。死ぬことが出来ない生の旅。少年のままで人生を送り続けるなどとは漫画の世界でなければ描けない。
小池が言うように明日海りおという逸材を得たこそ実現出来た舞台だろう。貴公子のような品性を持ち、動き、止まり、歌う演技の姿は妖しい魅力を咲かせた。星組の作品世界とは対照的な華やかさに満ちた。
私は、しかし、『ドクトル・ジバゴ』に1票を入れたい。宝塚歌劇は世界的な文芸作品や少女漫画の舞台化では実績がある。2作とも「愛」が主題だが、主役に適材を得たミュージカルで宝塚歌劇は新たな道を掘り当てたのだ。
(平成30年3月5日)
2018年1月、宝塚歌劇東京公演の幕開けは宙組と雪組の二つの組でのお披露目だった。
宙組は真風涼帆と星風まどかの新トップコンビのミュージカル『WEST SIDE STORY』(国際フォーラム)、雪組は望海風斗、真彩希帆のミュージカル『ひかりふる路・革命家、マクシミリアン・ロベスピエール』とレビュー『SUPER・VOYAGE!希望の海へ』である。
まず宙組は極め付きの傑作ミュージカル。ジェローム・ロビンスによる完璧な振り付けのダンスを生徒たちがどう踊り切るかが最大のポイントなのだ。
体育館で二つのグループが対決する群舞が良かった。特にアニータを演じた和希そらが一際目立つ実力ぶり。この和希は「アメリカ」でもしなやかな体で大きく踊り、実にチャーミングだった。
「クール」もいい。リフの桜木みなとが先頭に立って躍動感あるダンスを披露した。他ではベルナルドの芹香斗亜がセクシー。しかし歌唱で期待した「トゥナイト」はもっと感動的に歌って欲しかった。
一方の雪組はトップ二人の圧倒的な歌唱力が舞台を魅了した。全楽曲を作曲家フランク・ワイルドホーンが提供したという豪華で贅沢な企画。ブロードウェイで活躍する同氏の曲が作品に輝きを与えた。幕開けの最初の曲が静寂でも、波瀾への序曲に思える素晴らしい滑り出し。何かを予感させる謎めいた曲調だった。
望海風斗の最初の出は舞台中央からセリ上がり、凛とした姿。黒ブーツ、軍服が凛々しく若々しい。「二人で未来へ」を真彩と合唱するのが映えた。真彩はとにかく歌が抜群。伸びる高音部が耳に心地良い。この新トップのスタート。歌がいい、バランスもいい。脇役も揃っていて、楽しみな組になった。
(平成30年1月22日)
宝塚大劇場で花組『ポーの一族』、東京宝塚劇場では雪組『ひかりふる路』で開幕した2018年の宝塚歌劇。発表された今年前半のラインアップを並べながら、宝塚歌劇の人気を考察したところー。
『ポーの一族』の東京公演は2月16日初日、月組『カンパニー』の大劇場が2月9日、東京が3月30日初日、宙組『天は赤い河のほとり』の大劇場が3月16日、東京は5月11日初日、そして星組『ANOTHER WORLD』は大劇場が4月27日、東京は6月22日初日、雪組『凱旋門』の大劇場が6月8日、東京公演は7月27日初日という5組のミュージカル作品となった。『ポーの一族』だけが1本立てで他の4組はショーが同時上演される。
漫画を原作にした芝居の演目が2本だが、バラエティに富んだラインアップと言えよう。
注目したいのは芝居ではやはり『凱旋門』だ。脚本が柴田侑宏、演出・振付が謝珠栄。世界的に知られるレマルクの小説の舞台化は再演。名作ミュージカルは前半の最大の話題になると思う。
ショーでは岡田敬二・作・演出の『シトラスの風』。新生宙組の新トップコンビによるお披露目公演だから岡田先生の力の入れようが早くも期待されるのだ。
新年互札会で年間動員が4年連続270万人を突破したという小川友次理事長の報告があった。東京公演では100%ではなく101%の観客動員が続いているそうな。1%とは当日売りのために用意している客席を加えている数字であった。男性俳優だけによる歌舞伎公演も人気が続いているものの、100%に及ばない上演月間がある。一方、女性だけによる宝塚歌劇は超満員の連続。その人気の秘密は何だろう。
光り輝いていたスーパースター柚希礼音がタカラジェンヌの存在を再認識させ、爆発的な人気の渦を巻き起こしたと思うのだが、その柚希が卒業しても人気は継続している。新たに立ったトップたちがそれぞれ個性的で実力が拮抗している側面も認めたい。しかし、今の観客は美しいもの、広がる夢、一途に打ち込む姿を求めているのではないか。この人気を続けるには作品のさらなる進化、脚本の充実が欠かせない。
(平成30年1月22日)
出演者が緊張気味、ウキウキワクワクしていたのが脚本・演出の小池修一郎と原作者の萩尾望都といった印象が16日に開かれた花組のミュジカル・ゴシック『ポーの一族』の制作発表会だった。
まずは出演陣から書こう。
主役エドガー・ポーツネルを演じるのが明日海りお、貴婦人シーラ・ポーツネル男爵夫人が仙名彩世、そしてアラン・トワイライトが柚香光。中井美穂の進行で小川理事長の挨拶から始まった発表会。恒例のパフォーマンスは主題歌「ポーの一族」と「かなしみのバンパネラ」の2曲に乗って「ポーの一族」では明日海が深紅の1本のバラの花を手に歌うと、残る2人が途中から絡んで歌とダンス。「永遠に続く旅路の寂しさ…」といった歌詞、2曲目には「ボクは悲しみを抱いて生きるバンパネラ」という歌詞が印象を残した。
トークショーと質問コーナーでは明日海が原作者の前で歌ったため「事の重大さを感じて緊張しました。原作の漫画は音がないのでエドガーってどんな声をしているんだろうかーと。丸くふくよかでも少年の声を研究します」と14歳の少年の役作りをするという。仙名はパフォーマンスをやって世界観が広がったとか。柚香は「想像力を刺激させられる作品」。金髪の鬘、またカラーコンタクトを入れての登壇だった。
さて、小池。劇化を申し出てから30年余。ついに実現する上演であり、多弁で、長編の中から三つのパーツを選んで脚本化したそうだ。原作者の萩尾はパフォーマンスについて「この世のものとも思えぬものを見ました。感激して何と言っていいか分かりません。私のイメージを越えた世界が広がる予感がしている」と、生徒以上に興奮していた。
なお、上演は来年1月1日~2月5日が宝塚大劇場、2月16日~3月25日が東京宝塚劇場となる。初の舞台化、ミュージカル化は“ベルばら”に並ぶヒットを予感させた。
【写真】明日海りお C宝塚歌劇団
(平成29年11月20日)
一路真輝と松平健が主演コンビのミュージカルコメディ『キス・ミー・ケイト』はバックステージ物で、劇中劇がシェイクスピアの「じゃじゃ馬ならし」。一路の役は旅回り一座の看板女優リリー、劇中劇ではカタリーナことケイト。松平は一座の演出家・主演俳優・プロデューサーのフレデリック、劇中劇ではペトルーチオ。2人は元夫婦で別れて1年。喧嘩が絶えないもののまだ吹っ切れない炎が残っている。
映画演劇文化協会主催のこの公演は7・8月に全国を回っていた。一路は14年ぶりの挑戦で「歌、踊り、芝居がバランス良く盛り込まれている」と出演に心躍っていたそうだ。しかし、元妻、女優、さらにケイトという役を演じ分けるのが難しいと言える。
歌、踊り、芝居の中で一路の歌声がミュージカル界でトップクラスなのは言うまでもなかろうが、とろけるような声の歌唱は相変わらず見どころ。踊りについては論評を避けるが次に芝居はやけに楽しんでいたように思えた。癇癪を起こして、到る所へ物を投げつけるわ、ドレスを捲くられて丸出しのお尻をペンペン叩かれるわ、お腹を空かしても食べ物を与えられない不満、男勝りの性分で恋人も結婚も出来ずにいるケイトをストレス発散のように暴れまくって演じていた。
一路が内包している喜劇性はまだ薄いものの、過剰にならないのが持ち味。考えてみればミュージカル出演は久しぶり。いわば古巣に戻った舞台で跳ね回っていた。
(平成29年8月23日)
極め付きのオンチなのにソプラノ歌手になる夢を追った伝説の女性が主人公の『グローリアス』(9月15日まで。青山クロスシアター)で彩吹真央が三役を演じている。
歌姫のフローレンスが篠井英介、ピアニストが水田航生。この二人に絡むのが彩吹。その役はメキシコ人の家政婦マリア、フローレンスの親友ドロシー、そして、その歌声の酷さを酷評する女性ヴェリンダー。この三役は個性も性格も立場もまるっきり違う女性だから、その演じ分けが難しい。ところが彩吹は女優として新たな一面を見せつけた。特に家政婦だった。
下手から走り出た最初の登場。これが恐らくファンだろうが、客席を驚かせ、笑わせた。黒髪のアフロヘアー、素顔とはまるで違う化粧のブス顔。早口でまくしたてるスペイン語(?)。飛びはねるように室内を動き回る。フローレンスやピアニストと会話にならない一方的で自己中心的な台詞。メキシコ人の特性をうまく摑んでいたのには感心した。そして、大いに笑わせた。コメディエンヌ彩吹の誕生であった。
演出・鈴木勝秀の注文だったのだろうが、彼女の奥に持っていた部分を引き出し、自由に演じさせたのが成功したと思う。
水を得た魚のようにイキイキとしていた舞台姿。彩吹のヒットだ。
(平成29年8月22日)
新装なった日本青年館ホールでの星組公演『ATERUI』は礼真琴と有沙瞳コンビが主演のミュージカルだが、あえてその2人ではなく取り上げるのが瀬央ゆりあ。アテルイの礼と闘う将軍坂上田村麻呂をステキに演じていたからだ。
星組30人の今回のカンパニーは男役、娘役に美形が多く揃っていたのが印象に残るが、一際目立ったのが瀬央。目鼻立ちが整った顔とは彼女のことだろう。田村麻呂と言えば武闘派の武骨な将軍と言ったイメージが強い。しかし、瀬央は美剣士のようだった。日本人離れした透明感のある美しい顔立ち、スッと立った時の凛々しさがある。2015年の『ガイズ&ドールズ』での新人公演の主役だったが、和物も十分いける。
アテルイの礼は背中からお尻近くまで長く伸びた髪の毛を振り乱して踊る場面がある。その礼と瀬央が1幕の幕切れ直前の第11場・都の西市で、舞台下手に瀬央、上手客席通路から礼が出て来て2人が見つめ合う場面が鮮やかだった。
舞台全体をフルに使った映像、礼と有沙の口付けシーンが1回だけというのも良かった。『スカーレット・ピンカーネル』のショーヴラン、『オーム・シャンティ・オーム』のムケーショ等を演じて紅ゆずるの二番手を続ける礼のトップへの道、瀬央は次代のトップへ。星組には楽しみが増えた。
(平成29年8月7日)
7年ぶりに朝海ひかるのアン王女を見て、確実に成長した彼女の演技を三つ挙げる。2010年の初演は宝塚を卒業してまだ3年目だったというが、その後は舞台を数多く踏んだのだから巧くなったのはある意味、当然と言える。しかし、人によってはヘタになる俳優もまた多いのである。
『ローマの休日』。主役のアン王女は映画はもちろんオードリー・ヘップバーン、日本版の舞台では大地真央。品位、知性、若さ、優雅さ、チャーミング、初々しさ。王女の要素にはいくつも必要だろう。先の二人はそれをいくつか持っていた。
朝海の成長と同時に私が発見した三つの好きな場面-。
第1はブラッドレーの部屋で最初に別れを考える場面だ。バスルームに向かい、思い直して彼の胸に飛び込もうとする一瞬の演技。切なさが存分に伝わった。王女という立場ではなく、一人の若い娘心、恋心が浮き出た。
第2はやっぱりラストシーン。国を思い、王族を守っていく決意で会見場を去る。背筋を伸ばし、自信が付いた足取り。楽しかった夢よさらば。毅然としていた。そこを出した。
三つ目は髪を短くして登場した場面。ヘップバーンと瓜二つに見えた可愛さだった。
スクーターで走り回り、男の人形と踊り、パジャマ姿で寝入る。名場面を残しながら吉田栄作、小倉久寛との3人芝居。時間を忘れる舞台版だった。
(平成29年8月7日)
大地真央が明治座で有吉佐和子の傑作『ふるあめりかに袖はぬらさじ』(潤色・演出・原田諒)のお園で主演すると聞いた時はちょっぴり動揺し、それが音楽劇だと知った時、かなり驚いたものだ。杉村春子、坂東玉三郎、藤山直美、水谷八重子が演じてきたのを見ているが、主にミュージカルの代表作で知られる彼女がどう挑むか。
幕末動乱の横浜で異人相手の遊廓岩亀楼で働く三味線芸者お園。大酒飲みでお人好し、嘘が上手のおしゃべりで陽気。先の3人の女優が演じた舞台と大きく違うのは、真央は美しい芸者であることだろう。天性のコメディエンヌ真央には嵌まり役に違いない。
初の音楽劇にしたから多分、歌は三味線を弾く場面かと推測していた。ところが外した。共演者の関西ジャニーズJrの浜中文一、大沢健や遊女亀遊の中島亜梨沙も歌うが、真央は三味線を弾きながら唄うのを始め、5曲ほど披露した。
三味線演奏では一人で、あるいは新派の女優たちに混じって弾いた。お園という芸者は吉原では尊皇攘夷論者の大物、大橋訥庵から「おい、三味線!」と呼ばれていた名手とされる女だ。真央はプログラムで、稽古をしている時「その音色が好きなんだと思う。というのも淡路島の祖母が趣味で浄瑠璃三味線を弾いていたんです」と語っていた。祖母の弾いた音色が下地にあったのか。演奏場面は笑顔を絶やさず、安定していた。特訓したのだろう。
色々と変えた裾流しの和服の立ち姿が美しく、日本酒をあおる飲み方、酔い方の自然さ、そして歌唱、随所で見せた喜劇のセンス。〝和服の音楽劇〟でも輝いていた。
(平成29年7月18日)
星組が初演し、月組が継承したミュージカル『スカーレット・ピンカーネル』が7年ぶりに再演されている。主役パーシヴァルが紅ゆずる、妻マルグリットが綺咲愛里。この二人の新トップコンビによる東京宝塚劇場でのお披露目公演である。大劇場での新星星組のスタートという訳だ。
大別すれば3点、ポイントを見つけた。
その第一が、紅は久しぶりに生まれた異色の男役トップスターであること。ファンなら先刻ご承知だろうが、これを再認識したのだった。では、異色とは何を指すのか。それは演技者としての喜劇性だ。宝塚歌劇が生んだ稀代のコメディエンヌ、大地真央と比較すれば分かる。真央は戯曲を読む力に優れていた。つかんだ役の性根を凝縮し、絶妙の間と台詞術で、笑いや批評性を発揮して演じた。
紅にも共通する。パーシヴァルことパーシーは正義感である。権力に立ち向かい、無実の貴族を救うため秘密組織を作り、その先頭に立つ。しかし、自身も貴族である。表の貴族で闘う一方、裏ではベルギー人スパイのグラパンに変装して闘う。11場で正体を現すが、老け役になりながら道化のような演技を見せた。紅の持つ二面性に喜劇性があるのだろう。笑いの演技もあるのだが、芝居の巧さから出るものだった。
ポイントの二点目は「ひとかけらの勇気」を歌う姿だ。「ひとかけらの勇気が僕にある限り」という歌詞の前に「僕は許しはしない」「僕は諦めはしない」「僕は行く、君の為に」という歌詞がある。作品の根幹を示している。闘うミュージカルなのである。
最後の三点目、それはやはり男役トップスターのお披露目は大劇場でこそ似合う-。ドラマチックで華麗なパーシー、美しく、愛する男を改めて見直して愛を深めるマルグリット。新星星組のスタートに絶妙のコンビが誕生した。
(平成29年5月24日)
収穫と再認識がいくつもあった。ACTシアターの月組公演『瑠璃色の刻(とき)』(作・演出・原田諒)だ。
主役シモンを演じた美弥るりか、ジャックの月城かなと、ロベスピエールの宇月颯、そしてフィナーレのダンス。18世紀、フランス革命(宝塚歌劇はこの歴史的な闘争が大好きだねえ)が起きた時代。顔や姿がそっくりなサン・ジェルマン伯爵になりすましたシモン。美弥は神秘的な人物を妖しげな目付きで印象的に演じ、踊りではしなやかな身体体を生かしたキレの良いダンスを披露。個性派男役を実証していた。
組替えで入った月組へ初出演の月城。美しい顔立ちと正統派の演技、ダンスはファンタジックだった。童顔の宇月は特にダンスでのキュートな笑顔、天まで届けとばかりに高く足を上げた姿が恰好良かった。
フィナーレのダンスは5分強。良知真次の振り付けはドラマチックだ。娘組、男役組が鋭い回転をするスピード感もたっぷり。1幕1場から「サン・ジェルマンの影」が踊る群舞に統一感があり、迫力も十分。“芝居の月組”らしく、皆、演技のレベルが高い。
駒が豊富な月組。カーテンコールで美弥が「みんなで修業して参ります。また身に行きたいと思われるように」と挨拶した舞台姿も爽やかだった
(平成29年5月24日)
月組のトップスターになった珠城りょう、愛希れいかという新コンビのお披露目公演、ミュージカル『グランド・ホテル』は特別監修をしたトミー・チューンのアドバイスの成果を充分に汲み取れる素敵な舞台を作り出した。
何度でも見たくなるダンスが圧倒的に迫ってきた。チューンが演出したブロードウェイの初演が1980年。宝塚歌劇での初演が1993年。24年ぶりの再演である今回、“モン・パリ誕生90周年”の記念でもあった。一糸乱れぬ-といういささか陳腐な言い回しだが、その一糸乱れない群舞が図抜けていた。
終演後の懇親会で演出の岡田敬二氏は昨年7月のニューヨーク、9月の東京でとチューンと打ち合わせを重ねたと語った。彼は東京では通し稽古に2回立ち会い、新トップの珠城を意識した、つまり個性を生かせる演出を考え、前回より5か所変えたという。第12景の「ボンジュール・アムール」や第14景の「ボレロ」などは宝塚版でしかやらないパートだった。
77歳になったチューンは今や大御所。演出家として振付師として超一流だ。その指導を受けて、数十人の生徒たちが鋭角的な振り付けの群舞、テンポが良く、横に縦にと一斉に動くダンスは実に心地良く、胸が弾む。
珠城の純白の衣装もチューンの閃きなのだが、スタイリッシュで舞台に引き立った。ダンスの名手、愛希との踊り、ベッドシーンもステキ。二人のトップスターのお披露目はチューンの贈り物になった。
(平成29年3月12日)
星組のトップコンビ、紅ゆずると綺咲愛里が主演のミュージカル『スカーレットピンカーネル』の制作発表が23日、新橋の第一ホテル東京で開かれた。そのエキスを書く。
イギリスの貴族パーシーを演じるのが紅、その妻マルグリットが綺咲、公安委員ショーヴランが礼真琴、ロベスピエールが七海ひろきという配役。7年ぶりの上演だ。
「ほう、なるほど!」と参考になったのが潤色・演出・小池修一郎の発言。「紅にはオーラが伝わる星組トップの伝統、そして愁いを秘めたものがある。また、歴代トップと違うのはお笑いのセンス。愁いの中で役の性根を出し、人間性をうまくブレンドする」。
その紅は「星組の主演男役としてこの作品に出るのは光栄でとても嬉しい。15年培ってきたものを初日に披露したい」。この後の発言がハッとさせた。
「今の下級生は引っ込み思案というか、集まりの中に入ってしまう。入団した時の原点を思い出して欲しい」。生え抜きの星組トップに就任して、自分なりの意見や行動を持つ大切さを感じていた事、そしてこれから後輩をリードしていく考えを述べたものだ。この発言に耳を傾けていた小池が頷く顔が印象的で、演出家として何かを秘めたように見えた。さらに紅は「役と同じように私も二面性はあります。しゃべらないと自分は利口に見えると言われている。正義感の強さを出したい」と笑わせた。
例によってパフォーマンスから始まった会見で紅は「どうしてだろう、この世界から…」と「ひとかけらの勇気」を歌い、礼のソロ、三人の合唱も披露した。紅、綺咲、礼は生粋の星組っ子という珍しいトリオ。“伝統の星組”というDNAをしっかりと意識した作品になるのを期待したい。
【写真】紅ゆずる(左)、綺咲愛里(右) C宝塚歌劇団 Photo by Leslie kee
(平成29年1月28日)
柚希礼音について二題を-。
最初は東京国際フォーラムで18日まで上演された『オーム・シャンティ・オーム』。トップスター紅ゆずると綺咲愛里のお披露目公演。連休明けの10日マチネーだつた。
開演直前、突如として拍手の嵐が起きた。何事か? 見れば下手のドアーから金髪の美女。柚希が入ってきたのである。驚く観客の奇声。鳴りやまない拍手。柚希は最前列中央に向かい、ファンに笑顔で応え、着席した。2015年に退団した星組の先輩OG。後輩の舞台を見るためだが、そのオーラの凄いこと。
第2場・撮影所になった。壱城あずさ、愛水せれ奈のラージェシュ夫婦が下手から出た。すると、柚希の目前に立った壱城が近付いて舞台上から握手を求めて手を差し出したのである。立ち上がってそれに応えた柚希。ハプニングというか、アドリブ演技というか。ファンが大喜びしたのは当然だった。
他の出演者も彼女の来場をアドリブで紹介したり、ちょっとしたダンスを求めると、それにちゃんと応じた柚希。まるで彼女のための上演といった雰囲気。お披露目のトップ二人の影が薄くなったように思えた。
次ぎはその柚希が主演したシアタークリエでの『お気に召すまま』(2月4日まで)。シェイクスピア作品には星組時代に『ロミオとジュリエット』に出演しているが、今回の喜劇では公爵の娘・ロザリンドの役。プログラムで出演に当たって「宝塚時代も毎公演挑戦でしたが、舞台人生の中でも今回は最大級の挑戦です。頭の回転の速いロザリンドという女の子を演じることもだし、自分からグイグイ物語を引っ張っていくコメディも初めて。全身全霊で挑んだ先にある光を目指して頑張ります」と語っていた。
挑戦はいくつかあった。ミュージカルではなくストレートプレイのシェイクスピア劇、マイケル・メイヤーという外国人演出家の指導を受ける、女優としての演技、男装にもなる…。
娘としては青いミニドレス、白い手袋という衣装、男装ではジーンズ、皮のチョッキに帽子。大股歩きで早口のオトコ言葉を使った台詞でもさすがにオトコの方が様になっていて、いい。そして、兄に右胸、つまりバストを鷲づかみにされた瞬間の反応芝居。これは見逃せない一瞬だ。その表情が乙女のものだった。
純白のウエディングドレスを着て娘に戻ったラストの場面。ソロで「白い花びらが~」とダンスとともに歌う女優柚希。小野武彦、青山達三の二人がシェイクスピア劇の台詞だったが、柚希にとって早口での台詞は今後の課題。いずれにしても華のある姿、アピール度が高い舞台でのオーラ。柚希は本物のスターである。
(平成29年1月22日)
月組の新トップスターになった珠城りょうと愛希れいかの新コンビお披露目公演、ミュージカル『アーサー王伝説』を見て、もどかしいというか、欲求不満を感じた人は少なくないのではないか。
珠城がようやく登場した1幕3場で、少年アーサーから入れ替わり、成人した姿となって舞台中央からセリ上がってきた時、早くもトップのオーラがあった。抜群のスタイル(特に長い足がステキ)、美しい笑顔で引きつけた。
今公演のために新たに作られた「アーサー王伝説」を歌う凛とした姿もいい。「恐れられる王でなく、愛される王に」。 主題を明示する冒頭から、しかし、その行き先が危うい歌詞だ。珠城はそれを力強く、決意を込めて熱唱した。その後、下りた客席を半周する。悪魔に取りつかれた姉モーガンと禁断の絡み合い。不倫を冒した妻の王妃と相手を追放する。「許すこと、諦めること」に揺れ動き苦悩する王を演じるそれらの場面で珠城自身が苦闘しながらの役作りをしてきたのが分かる。
ただ、いとも簡単に姉の言葉を信じてしまう。火刑から国外追放に決断を変えてしまう。これはフレンチミュージカルの脚本の問題だろうが、ちょっぴり疑問が沸く。そして銀橋もない、大階段もない、豪華な羽根を付けたフィナーレもない。本拠地の劇場ではなく文京シビックホール(10月19日まで。梅田芸術劇場は10月28日~11月9日)でのお披露目にしては寂しかった。
新コンビを組んだ王妃グィネヴィアの愛希は長身で、二人のバランスは大型トップ同士で異色。不倫相手ランスロットの朝美絢は小柄だが貴公子のようなムードがある。姉モーガンの美弥るりかが面白い。復讐の炎をメラメラ燃やす鋭い目付き、歌唱力もある。新星月組の船出。珠城は、物語と同様に円卓に集まる仲間と大海を精一杯泳ぎ続けることだ。
(平成28年10月23日)
朝夏まなとに目を疑った。驚いた。いつの間にこれほど進化したのだろう。宙組公演の『エリザベート・愛と死の輪舞』で9代目のトート。彼女の演じた黄泉の帝王の闇の中で輝くオーラを見せて、大きい。すっかりトップスターの貫録が見てとれたのだ。
1幕1場のプロローグ。舞台後方から登場した最初の出から目を奪う。プログラムで演出の小池修一郎が「個性的な容姿と的確な演技力」と書いていたが、その通り。鍛え抜いた長身の容姿は舞台映えがいい。赤、そして白にと変えていく衣装を纏ってエリザベートに死を誘う。
「その時お前は俺を忘れ去る お前の愛を勝ち得るまで 追いかけよう」-。名曲「愛と死の輪舞」ではエリザベートに愛(死)を拒否される時の歌声が心に染みる。そして終わりのない永遠の世界へと導くラスト。エリザベートの実咲凛音の伸びやかな歌声が素晴らしく、このコンビ間違いなくベスト3に入る。
(平成28年 9月23日)
一路真輝がトートを演じた1996年の雪組日本初演から20周年。東京宝塚劇場では9月9日開幕の宙組によるミュージカル『エリザベート』の制作発表が4月15日、帝国ホテルで開かれた。
トート役の朝夏まなと、エリザベートの実咲凛音、演出・潤色の小池修一郎、演出の小柳奈穂子ら6人が壇上に並んだ。
この前、例によって衣装付きの主役2二人のパフォーマンスから始まった。
「その瞳が胸を焦がし…」。朝夏は長い黒髪から全身まで黒一色のスタイリッシュな衣装で「愛と死の輪舞(ロンド)」を披露。大きく広げた両手はエリザベートを鷲つかみするようだ。続いて下手から出た実咲は純白のドレス。「私が踊る時」は二人の合唱となり、黒と白のコントラストが絶妙に愛と死の世界を作り出した。
この大ヒット作品の上演は2014年の花組以来。姿月あさとのトート、花總まりのエリザベートというゴールデンコンビだった宙組は1999年以来だ。
9代目トートの朝夏のスピーチが会場の笑いを誘った。
「20周年という記念。責任と喜びでいっぱいです。入団1年目、花組に出演して初台詞を頂いたのがこの作品でした。『病人がいるんだ』のひと声が言えないで何回も叱られた。団結力のある、向上心のある今の宙組。太陽のような存在になりたいと公言している私は明るいと思うのですが、トートは真逆。私のイメージを覆すようなトートをやりたい」。
演出の小池から「破綻があってもいい。面白いエリザベート像を作ってほしい」と注文を受けた実咲。「20周年の年で、奇跡のように思っています。映像で全ての作品を見ました。エリザベートの鏡の前での場面が印象的。人生の喜怒哀楽の体験をしたエリザベートをリアルに再現出来るか。私も魂を注ぎ込んで取り組めたらと思っています」。
小池は「これまでも個性とアプローチの仕方を(生徒と)話し合ってきた。トートは髪を黒くします。攻撃的で、死が持つ暴力性がある」と語り、小柳は「組の色で変わるこの作品は歌舞伎的だと思います」と話していた。
【写真】右/朝夏まなと(トート) 左/実咲凛音(エリザベート) C宝塚歌劇団
(平成28年 4月19日)
ヒットコミックの初舞台化を小池修一郎が初めて「和もの(時代劇)」の演出で挑んだ。さらに新撰組が出てくるのだから、そりゃあ、もう期待するでしょう。
主人公・緋村剣心を早霧せいなが演じた雪組『るろうに剣心』。ミュージカルスタイルによって華やかさとアクション(立ち回り)が見どころとしていた。
まず、アクション。数えてみると1部に立ち回りが5回、立ち回りもどきが3回。2部では4回と1回。宝塚歌劇では多い部類だろう。1部ではいきなり〝人斬り抜刀斎〟という志士時代の剣心が10人の新撰組志士を斬りまくる。その後、官軍と新撰組との〝剣の舞〟が繰り広げられ、2部では剣心と望海風斗が演じる加納惣三郎との1対1の対決が見どころになった。
早霧の立ち回りは予想以上に上出来だった。生来の身体能力だけでなく、稽古を積んだ成果と見た。そして四乃森蒼紫の月城かなと、武田観柳の彩凪翔、斎藤一の彩風咲奈ら男役が皆、スタイリッシュで個性的で恰好いい。雪組には男役が揃っていたのに再認識させられた。
娘役では大瀬せしるの女医が魅力的だった。長い黒髪、クリッとした目とコケティシュな表情。これは「目が回ったでござる」などの台詞の早霧を始め、それぞれがマンガチックな演技をやって、劇画から抜け出したような人物に映ったのはお手柄。小池演出の狙いでもあろう。舞台背景には終始、映像が映し出され、スピーディなアクションはまさに〝走る雪組〟の本領発揮。華やかな浪漫活劇は充分、再演に耐えられる。
(平成28年 4月12日)
終演後の懇親会でスーパーバイザーの小田島雄志さんはこう挨拶した。「昨年の9月か。(作・演出の)生田大和君からシェイクスピアの上演を聞いた時、実生活のシェイクスピアと、その作品をないまぜにして作ると知り、正直言えば失敗7割と思った」
「なぜならシェイクスピア作品だけをやった方がはるかに面白いからです。しかし脚本を読んで私の不明(無知)を恥じた。素晴らしいと思った。実生活と作品がないまぜになった作品は見事に溶け合って、その成功は初めてではないか。最後に(「冬物語」)のアンが白いマスクを投げ捨てた時、私は涙が出た」
東京宝塚劇場の宙組公演『Shakespeare(シェイクスピア)・空に満つるは、尽きせぬ言の葉』は、シェイクスピア没後400年メモリアルと銘打たれた。2月24日に観たのだが、朝夏まなとがウイリアム、妻アン・ハサウェイが実咲凛音。劇中劇、あるいは作品を重ねた物語の中で登場したシェイクスピア作品は7本。「ハムレット」「冬物語」「マクベス」「夏の世の夢」「ロミオとジュリエット」「リチャード二世」「ジュリアス・シーザー」だが、その英語版印刷が上手と下手に装置のボードで設えていた。舞台が丸ごとシェイクスピア世界と言える。
物語の主題は夫婦愛。名作を次々と 作り上げて家の紋章を得たいウイリアムの上昇志向、一人息子ハムレットを育てながら多忙な夫と別々の生活を送る上、不倫を疑われるアン。バージンクイーンのイングランド女王エリザベスⅠ世から夫婦愛の作品を求められても、息子は死に、妻には去られたウイリアムは書けないという。
スピーディーに展開する演出。中核作品は「ロミオとジュリエット」と「冬物語」だが、朝夏は青年時代、全盛期、失意の悩めるウイリアムを演じ分けていた。生徒の中ではロバート・セシルで出た天玲美音がショー『HOT
EYES!!』で際立つ存在感。なにせ目元目尻をギットリとメイクして客席に見せた笑顔などの表情が凄いのだ。そのショーが大階段を全場で使うという思い切った趣向。これが実に効果的だった。
(平成28年 2月26日)
老婆と絶世の美女。一路真輝が右端と左端の振り幅が極端に広い二つの役柄を演じ、その老婆に新境地を開いたように思えた。
三島由紀夫の『卒塔婆小町』と『熊野』を下敷きにしたマキノノゾミの作・演出『道玄坂綺譚』(パブリックシアター)で、一路は言う。「大正3年、ごおうのとらだよ。ことしで99歳だよ」。年齢不詳の女・コマチという老婆。36年置きに回ってくる〝五黄の虎〟生まれだと吐き捨てるような台詞である。
ネットカフェに長期滞在しているコマチは浮浪者のような周囲に異臭を放つボロボロの服を着ている。長い白髪、腰が曲がったまま椅子に座り、サングラスをした顔を上げない。話かける店員に「さっきから、あんたさあ、グチャラグチャラ」とはねつける。あるいは「美しいものは、そっと愛でればいいだよ」などと口汚く話す。
しかし、この女が語り出した過去は絶世の美女だったこと、「百夜(ももよ)通い」によって自分を求める青年将校が、あと一日という日にクーデター事件を起こしたことなどを回想する。このコマチという女は「不当にも自分を首にした社会への復讐だから、働かない」と言い、カップラーメンしか食べることができない老婆である。
一路と言えば透明感のある姿態、伸びやかな歌声が持ち味。ガウンをまとった1幕の切れで一曲歌うのだが、この老婆はこれまでにはない汚れ役。「良い時期に良い作品と出会わせていただいたことに感謝しています」
とプログラムで話している。エポックメーキングとなるだろう老婆役の彼女の本気度が見てとれる。
【写真】撮影:細野晋司 出演:平岡祐太(左) 一路真輝(右)
(平成27年 11月26日)
12年ぶりの再演となったグランド・ロマンス「王家に捧ぐ歌」は宙組の新トップ、朝夏まなと、実咲凛音のお披露目公演だが、まず、フィナーレから書き出そう。
大階段を使った装置に目を見張った。それは金色に輝く大階段の上に三角形の背景が浮かぶ。つまり、ピラミッドの形態なのだった。この作品でこそ生まれたアイデアだろう。敵対していたエジプトとエチオピアの闘争の末、将軍ラダメスも女王アイーダも永遠の眠りについた。その後に開かれた祝祭がこの大階段で行われているように思えた。その前で踊るピチピチに若い32名のロケット、ラインダンスがまた映えた。
ラダメスの朝夏は勇猛な将軍ではあるが、敵国にも優しい。融和を願い、出世欲よりも愛情を選ぶ。そんな人間味を出す。
アイーダの実咲は、何よりも祖国を思い、民族の誇りに生きる王女。ラダメスへの愛との葛藤を全身で表現した。
スケールという点では不満が残る新トップだが、新鮮さは買える。
そしてもう一つ。
振付に竹邑類の名前が入っていたことた。我々はピーターと呼んでいた。2年前の12月に他界したのだが、初演での彼の振付作品が甦っていた。石壁の場面のそれは見方によっては古めかしいだろうが、実にシンプルで一切、無駄がない。飾らないピーターの作品だった。
この他、新人公演でラダメスとなる桜木みなと、アイーダを演じる星風まどかが風の女とメレルカで出演していた。ともに、まだ愛くるしいイメージだけが残る。今後の精進に期待しよう。
(平成27年 8月17日)
女優に転身して6年目の月組元トップスター瀬奈じゅんが6月7日、パルコ劇場の朗読劇「ラヴ・レターズ」に初登場した。
知る人ぞ知るロングラン公演だ。宝塚ファンなら特にファーストシーズンの1991年に鳳蘭がOG初出演して以来、今年1月には大空祐飛(会場はブルーシネマ六本木)が出演したのを覚えているだろう。
ことしは開幕から25周年の区切りで、瀬奈は俳優葛山信吾と組んで25シーズン第1弾の4組目で初起用されたのだった。
瀬奈がメリッサ、葛山がアンディ。幼なじみの二人はハイスクールから大学へ、そして社会人、結婚生活へと別々の道を歩みながら手紙のやり取りを生涯に渡って続けた。恋愛感情を抱きつつも結ばれなかったが、人生の後半に男女の仲になる。はっきり言って、不倫関係ともなるようなのは、褒められる男女ではない。弁護士から政治家になるアンディ、結婚後も画家を続け、ある程度成功するが人生の終わりは病魔に冒され、早世するメリッサ。約2時間半、二人は台本を読み続けるのである。
白いブラウス、黒いサブリナパンツ、黒いシューズの瀬奈。一方の葛山はスーツ、ズボン、シューズは黒一色。着ているシャツだけが白。上手の椅子に座った瀬奈、下手椅子の葛山は対照的な関係に見えた。組んだ足の上に台本を置いた葛山、瀬奈は終始両手で持ち、台本を読む距離が近い。グラスの水を口にすることはともになかった。
「助けて!」「会いたい!」と何回も書いたメリッサ。不思議な間(ま)を入れて語り始める葛山。演技力が大きな要素を占める朗読劇もあるが、やはりポイントは台詞術を含むリーディングの出来にある。歌もなく、踊りもなく、演技も限られる朗読劇。少女から成熟した女までの半生を語り抜いた瀬奈。19日からは「ア・フュー・グッドメン」でストレートプレイが始まる。41歳になった彼女の舞台女優の飛躍を期待しよう。
(平成27年 7月1日)
花組新トップコンビ明日海りお、花乃まりあの東京宝塚劇場お披露目公演で3つの、いや3人の生徒に発見があった。明日海、柚香、そして千幸あき(ではないかと思うのだが?)だ。
ミュージカル「カリスタの海に抱かれて」で新トップ明日海に浮かんだキーワードが「大胆さ」。カリスタ島出身のフランス軍将校シャルルを演じた明日海は、大股開きを2度見せた。座ったままで目一杯に両足をおっびろげたのである。すげえ~!。
実際の男でもやらないような大胆さ。島の独立を勝ち取る意志。部下らを牽引する勇気、強靭さを出したのだろう。レビューロマン「宝塚幻想曲」では見事な金髪を塗り固めたオールバックの頭髪が想像外で、これにもビックリ仰天。その思い切りの良さ、大胆さよ。一瞬の見た目には坊主頭かと思えるのに、明日海の決心は花組トップとしての決意、覚悟なのだろう。さらにダンスの実力。これまで見てきた彼女とは別次元の躍動感、鋭いキレ、跳躍力を目撃した。気付かなかった、情けない。
次は柚香。21歳のナポレオン・ボナパルト役だが、獲物を狙い定めたような鋭い眼光はまるで小鹿を襲うヒョウかピューマ。獰猛さえ感じた。日本人離れした顔。欧米人のような高い鼻筋が真っ直ぐに通り、唇も輪郭がクッキリしている。英雄にと突き進むナポレオンの権力欲が浮かんだ。そして、ショーでは7場七楽章。「黒影・花に嵐」の黒影が印象的。今後、歌唱力がアップすれば次期トップへの道が開かれるだろう。
最後はショーで見たラインダンスの一人。図抜けた長身、スタイル抜群の若手。千幸あきだと思うのだが、ステキな笑顔も記憶に残った。もし別人ならごめんなさい。以上3人。花組に楽しみが増えた。
(平成27年 5月28日)
12年ぶりの再演となる宙組公演「王家に捧ぐ歌」の制作発表が4月21日日に行われ、エジプトの若き将軍ラダメス役の朝夏まなと、エチオピア王女アイーダを演じる実咲凛音の新トップコンビが衣装を付けて会見に臨んだ。
例によってミニパフォーマンスから始まったが、まず朝夏が金色の衣装で「祈ろう明日を-」と「世界に求む」を熱唱。続いて実咲が「闘いは新たな闘いを生むだけ-」と「アイーダの信念」を歌い上げた。3曲目はデュエットで「月の満ちる頃」。二人は遠くの上を見上げるように、抱き合う愛の姿を印象付けた。
脚本・演出の木村信司は「この作品は愛と平和と言われるが、最初に書いたのは愛だけでした。何者にも邪魔されないで、愛を-。衣装をグレードアップして、フィナーレもボレロを静かに歌い出すとか、変えます」。
宝塚大劇場でのお披露目となる二人。朝夏は「初演を見た時、宝塚作品ではなんてスケールの大きく、音楽が素晴らしいのかと思ったのを覚えています」。実咲は「宙組一丸となってやりたい」。
星組の初演は安蘭けい、檀れいコンビ。演出の木村は「平和」よりも「愛」を強く描くかもしれないが、12年後の今こそ強く「平和」が求められる。実咲がアイーダの平和を求める信念を世の女性に伝えたいとも言った。
6月5日から宝塚大劇場で、7月31日から東京宝塚劇場で初日を迎えるグランド・ロマンス。新コンビの新鮮さが待ち遠しい。
【写真】左・実咲凛音、右・朝夏まなと C宝塚歌劇団
(平成27年 4月24日)
宙組トップスターに就任する朝夏まなと(初舞台・2002年)とトップ娘役の実咲凛音(初舞台・2009年)のお披露目公演、ミュージカル「TOP
HAT」(脚本・演出・斉藤吉正)の発表会が1月26日に開かれた。
3月25日~30日に梅田芸術劇場メインホール、4月5日~20日に赤坂ACTシアターで上演されるこの作品はダンス、特にタップダンスの魅力がたっぷりと見られそうだ。というのも1935年に公開された映画の舞台化で、主演したのがフレッド・アステア、ジンジャー・ロジャース。映画史上最高のダンシングペアだった。
発表会は10分間のパフォーマンスから開始。1曲目は朝夏がシルクハット、ステッキ、シューズ、そして胸に白バラを付けた燕尾服まで全て黒色。軽快な曲でタップを披露。2曲目には途中から実咲が加わって2人でのタップダンス。3曲目は実咲のソロ、そして最後の4四曲目をデュエットで歌い、踊った。
「ダンスをやっている者にとって神様のようなフレッド・アステアが目標ですが、稽古で未熟さを痛感しました。生まれ持った手足を生かして最大限の表現、力全て、それ以上のものを出したい」と朝夏。演出の斉藤が「朝夏は宝塚屈指のダンサー。クラシカルでスタイリッシュな彼女は伝統的な男役」と言い、ロマンチックな男女のコメディにしたいと話した。
実咲は「新しい宙組が始まっていく時にピッタリの作品です」。朝夏が演じるのはブロードウェイのスターダンサー、実咲はファッションモデル。本間憲一が振付、島田歌穂が歌唱指導する日本初上演のミュージカル。ハリウッドの黄金時代の華やかなタップシーンが楽しめそうだ。
【写真】左・実咲凛音、右・朝夏まなと C宝塚歌劇団
(平成27年 1月30日)
早霧せいな、咲妃みゆという雪組新トップコンビのお披露目となる作品「ルパン三世・王妃の首飾りを追え!」が発表された。宝塚大劇場で来年1月1日、東京宝塚劇場で2月20日に初日を迎える宝塚歌劇101年目の第一歩を飾る人気アニメの舞台化だ。
約10分間のパフォーマンスから始まった発表会見。銭形警部の夢乃聖夏、アントワネットの咲妃らの順で登場し、ルパンの早霧は黒のスラックス、赤の上着にネクタイ、紺のシャツを着て、黒い短髪、首飾り。「夕闇にきらめく星、あれは君の涙…」のテーマ曲を披露した。
早霧は「日本国民なら誰でも知っている作品のルパンを演じられるのは光栄です。101年目の正月公演。期待以上のものを精一杯演じたい。最初、お話を聞いて正直、驚きましたが格好良さと、ちょっと剽軽さが男役に通じるルパンをコメディらしく、とちったり笑ったり…」
咲妃は早霧とルパンの共通点について。「早霧さんはファンの心を盗んでいると思います」と優等生らしい巧い表現で笑わせた。
脚本・演出の小柳菜穂子は「ロマンスもあり、作品のスタイリッシュさと(宝塚の)ゴージャスさを融合させる」と話した。
ルパンが誕生して47年目。アニメーションになり、映画になり、ゲームにもなった超人気作品。初のミュージカル化による宝塚版はファンの心を盗めるか。
【写真】(左)早霧せいな、(右)咲妃みゆ。C宝塚歌劇団
(平成26年11月20日)
女性キャストのみ、しかも元宝塚トップスターが主要な役をトリプルキャストで演じるブロードウェーミュージカル「シカゴ」の制作発表が9月17日に行われた。一般客を入れた会見を詳細に書く。
3人ずつ3組に分かれたOGのミニパフォーマンスから始まった最初はヴェルマ・ケリー役が和央ようか、湖月わたる、水夏希の順で「オール・ザット・ジャズ」を歌唱。
次ぎがロキシー・ハート役の同じく朝海ひかる、大和悠河、貴城けいの順に「ロキシー」を歌った。
ラスト3番目がビリー・フリン役の峰さを理、姿月あさと、麻路さきが「オール・ケア・アバウト」。ちなみに全員が黒づくめの衣装。けいこ着も黒に決められ、けいこ場は歌、踊り、芝居の3バートにきっちり分かれているとか。これは全てブロードウェーとの契約だという。衣装は女役がミニスカートあり、ロングドレスあり。ビリー役の男役は3人ともスラックスだった。
続いて質疑応答の前に上級生の順に抱負を語った。
峰「初日には自信を持ってビリー役に邁進したい」
麻路「結婚、子育てを終えてドロドロしたミュージカルに参加できて光栄です」
姿月「ワールドワイドの世界です」
和央「6年ぶりのヴェルマ役。年を取ったのか、けいこ初日にウルッときました」
湖月「フルバージョンが幸せ」
朝海「大好きな作品のロキシー・ハート役は幸せ」
貴城「これが自分たちの『シカゴ』です-を作りたい」
水「大きくなった自身を見せられるようにおけいこに励む」
大和「OG公演が新鮮でワクワクしています」
会見のステージの背後に立てられたのが金屏風。ブロードウェーミュージカルの発表だが、和洋折衷の演出?が面白かった。
(公演は東京国際フォーラムが11月1~9日、12月10~19日。梅田芸術劇場が11月19~30日。愛知・刈谷市総合文化センターが12月5~7日)
(平成26年9月19日)
雪組トップコンビの壮一帆と愛加あゆのサヨナラ公演が過不足なく楽しめた(東京宝塚劇場・8月31日まで)。
宝塚傾奇絵巻「一夢庵風流起・前田慶次」とグランドレビュー「My Dream TAKARAZUKA」の和と洋との2本立て。トップスター壮の行く末を祝う内容に徹底されていた。
絵巻で壮が演じたのは前田慶次郎。自由な世界に生きようとする傾奇者(かぶきもの)であり、朱槍を振り回し、荒馬を乗りこなし、奇抜な格好で暴れ回る。1場からいきなり立ち回りだ。顔に流星がある黒鹿毛の馬に何回も乗るが、その乗りこなし姿が凛々しい。
2部のレビューで歌う「伝説誕生」の歌詞には「自分で言うのはちょっと照れるけど曲がったことが大嫌い」「楽しい時間は夢のように過ぎ、後のことはお願いとハイタッチしてゆく」などがあり、いかにもサヨナラ公演をテレくさい位に表現している。長身で足が長く、スタイルが抜群の壮は純白の燕尾服がステキだった。
愛加はダンスがしなやかで、振りに感情が出ている。その2人の踊りは軽やかで、楽しんで見えるのが良かった。
雪組は男役、娘役とも層が厚い。芝居で庄司甚内を演じていた月城かなとは新人公演で主役の前田慶次郎に扮する。この生徒は将来性が楽しみな大器だろう。武士の姿が凛々しい。二枚目の主役として次の次ぎあたりのトップスター候補に推したい。
(平成26年8月25日)
早霧せいなが雪組トップスターに、咲妃みゆが同じくトップ娘役に就任するお披露目公演の制作発表が7月22日に行われた。
日生劇場で10月11日~同31日まで上演されるのは生田大和の脚本・演出のミュージカル「伯爵令嬢」。細川智栄子あんど芙~みん姉妹による少女漫画の原作は累計260万部を超える販売という大ヒット作。その初の舞台化で、トップコンビのお披露目が同劇場で行われるのも初めてと異例尽くしだ。
原作者の姉妹、早霧、咲妃ら6人が出席した発表会は、主題歌を歌いながら10分間のミニパフォーマンスから始まった。早霧は紺系の燕尾服にハット、ステッキ。咲妃はピンクとホワイトが組み合わされたロングドレスを纏い、白い羽毛が付いた帽子を被ったフランス人形風。「ジュテーム、ジュテーム」。早霧は左の握り拳を力強く振りながら高く、鋭い歌声を披露。咲妃は旧式の写真機を持ちながら天真爛漫なハネ返り娘を見せていた。
早霧が演じるアランは公爵家の子息、咲妃は孤児院で育ち、海難事故で記憶を失ったコリンヌ。姉の細川さんは「私たちは少女の皆さんに愛と憧れと優しい心を伝えようと生涯かけてきました」。妹の芙~みんさんは「漫画は音楽が流れませんがミュージカルは流れます。楽しみです」。
運出の生田はテーマについて①3~4世代に支えられている宝塚ファンの憧れ、これがキーワード②外国、パリの風を大事に③コンビの魅力④華やかなレビューとしてやれれば-と話した。
早霧は「漫画のファンを裏切りたくない。アラン像に近づける役作り、子供の心を持つオトナの青年を、心を込めてお稽古に励んでいます」。咲妃は「すばらしい世界観に少しでも近づけるように頑張ります。愛らしさ、溌剌さを丁寧に演じるのを心掛けます」
少女漫画の舞台化といえば〝ベルばら〟が随一。宝塚歌劇にピッタリの作品はさて?
【写真】左より早霧せいな(アラン)、咲妃みゆ(コリンヌ)。C宝塚歌劇団
(平成26年7月28日)
月組の東京特別公演「THE KINGDOM」(日本青年館・7月28日まで。8月2~10日・シアター・ドラマシティ)で先行き楽しみな生徒2人を発見。イワノフ役紫門ゆりや、エフゲニー役朝霧真だ。
すでに期待されている2人だが、紫門のイワノフは亡命ロシア人、朝霧のエフゲニーはその仲間。朝霧はリゾートの男など複数の役にも姿を見せていた。
紫門は茶の皮ジャンが似合うリーダー格がピタリと嵌まる。やや長髪の髪形がステキ。愛らしい笑顔も目立った。まだスター性というよりアイドル性が勝った丸顔系の顔立ちは今回の中では得をした。ラストのショーでは黒燕尾服の立ち役でクリッとした目付きが印象的だった。
一方の朝霧も際立つ個性的な表情を見せた。精悍な顔付きで金髪。どこか不気味な役柄に存在感があった。
正塚晴彦の脚本・演出によるこの作品は実にスピーディーな展開が心地良い。20世紀初頭のイギリスと革命前夜のロシアの状況を背景に情報部員ドナルドの凪七瑠海、伯爵家の次男パージバルの美弥るりかが政治的な確執の中で友情や愛情の糸が絡んでいく。小柄な美弥、長身で細身の凪七。同期2人のダブル主演という両輪で謎めく物語を引っ張っていた。
(平成26年7月28日)
「ベルサイユのばら・オスカル編」が東京・宝塚劇場で上演された(7月27日まで)。観劇した公演後の懇親会で脚本・演出の植田紳爾氏が挨拶した。
「宝塚100年という年に〝ベルばら〟をやる。どういう料理をしていたらいいのか苦労した。(凰稀)かなめがいてくれた。充実している宙組がいて、実った。自分でも感動したのは、これだけ豪華でスケールの大きな劇団はここしかないと思った。誇らしく思いました」
思い起こせば、1974年に初演。あれから40年が経った。当時、〝ベルばら日記〟を連日連載したのが忘れられない。私のオスカルといえば榛名由梨、安奈淳、汀夏子の三羽ガラスに続いて加入した順みつき。この四人衆の印象がやはり強烈だ。
24人目となった今回のオスカルは凰稀かなめ。注目されたのはまず大階段。1幕3場プロローグCD。オスカル最初の登場だ。中央に立つ凰稀の顔にピンスポットの照明が当たる。そして大階段を被っていた黒幕が左右にサッと引かれると全身にライトが当たって浮かび上がった。ここが際立つ。
次ぎに4場プロローグE。ロザリー役の実咲凛音が大階段を下りてから〝バラの淑女S〟として「ばらベルサイユ」を歌うのだ。順調な滑り出しだった。
凰稀オスカルは1幕17・18場、純白のペガサスに乗ってオケピットの上まで飛び出してくる場面、また、2幕11場、オスカルの居間の場面がいつもグッと来る。アンドレの愛を受け入れたオスカルが「わたしを、抱け!」と言い放つ。先の四人衆も決然としてアンドレに抱かれていたが、凰稀には女性に戻ったような、甘く、気高く、生きる喜びの愛が見えた。
宝塚100年の〝ベルばら〟は記憶に残るだろう。
(平成26年7月28日)
安蘭けいは公私ともに今、挑戦の季節に生きているのだろうか。プライベートでは吉田鋼太郎との交際が気になるが、まあ、これはどうでもよろしい。なるようになるサ。パフォーマーとしての活動に目を向ければ、ソロ・ミュージカルと珍しいジャンルを付けた「レディ・ディ」。青山クロスシアターという小空間の舞台に立っていた。
挑戦と言えるのはジャズへの接近、しかも伝説の歌姫ビリー・ホリディを演じるという勇気、気概だ。正確を期するなら、ピアニスト小林創が演奏し、ジミー・パワーズにも扮していたので二人芝居、ついでに言えばロン毛のチワワも登場したからソロではないかもしれない。しかし、安蘭は14曲を歌い、演技も見せたミュージカルである。
両肩を大きく露出した純白のロングドレスに白い靴。髪にはくちなしの花の白いブーケを付けていた。口紅はルージュ、マニキュアも赤。そして肌は茶系で化粧された安蘭。実際のホリディは太めだったから、細身の彼女とは似つかない。
さて、タカラジェンヌのトップスターだった安蘭がジャズを完璧に歌うのは難しいと思うだろう。ブラックなムードも出さねばならない。
黒人ゆえの人種差別、貧困ゆえの絶望、酒と薬におぼれながら格闘した短い人生。その姿を演じるためのソウル、つまり魂がポイントだった。時に言葉を荒げ、叫び、観客(市民)を挑発するホリディ。安蘭は長い間(ま)を入れたりと悲しく、虚しく、底知れない絶望的な表情を演じた。
たった一人の表現者として原点に戻る挑戦。また、女性として生きるとは何か。安蘭の公私ともの真価が問われる。
【写真】安蘭けい 撮影:渡部孝弘
(平成26年6月23日)
柚希礼音がルイ14世を演じたからこそ、フランス製のミュージカルの星組公演「太陽王~ル・ロワ・ソレイユ~」(脚本・演出・木村信司)が成立した、換言すれば柚希が演じなければ観客は砂を噛む思いをしたかもしれない(シアターオーブ。6月2日まで)。
17世紀のフランスに君臨し、絶対君主となったのが「太陽王」と呼ばれたルイ14世。孤独の中で権力をふるい、愛を求め、国を動かす。そんな人物を魅力的に演じる必要条件はスケール、成長力、そしてオーラ。柚希はそれを備えている男役トップスターだ。
全身ピッカピカに光る派手な衣装で七階段の上から登場した冒頭。最初の曲「決められた道」で自らの宿命、使命を歌う時、その動きは抑制され、静かで、歌声は伸びやか、戦闘シーンでは最前線に立つ踊り。歌わず、ただ〝剣の舞〟だった。
2幕になると「朕は国家なり」と宣言し、上手の舞台から客席に降り、グルリと回って下手の客席通路からステージに上がっていくその速度が痛快だ。
上げた足は高く、スッと伸びて、広げた両手は孔雀の翼のようだ。最初の登場から一貫して包容力に満ちた踊りだった。
衣装を5回、6回と替えながら時にモンテスパン夫人(壱城あずさ)の胸をまさぐり、スカートの中の奥まで手を入れるというショッキングな演技もあるが、不潔感を与えないのは自然な流れだからだろう。
所見の19日、相手役が台詞を間違えてしまい、「あ、間違えた」と言ってもう一度やり直したが、柚希は一向に動じず、一瞬、客席に向いた時、哄笑が起きた。ナポレオンに続く歴史的な英雄を演じたが、大きなスケールを出せるのは今の宝塚にこの人の右に出る者はいない。願わくば、もっと作品に恵まれること。10年に一度の才能なのだからー。
(平成26年5月26日)
轟悠の実力を改めて痛感させたのが専科・東京特別公演「第二章」(脚色・演出・石田昌也。日本青年館)。ニール・サイモンの自伝的な喜劇であり、出演者四人だけの徹底的な台詞劇、つまりストレートプレイ。2013年10月に宝塚バウホールで上演されての東京初上演だ。
42歳の小説家ジョージが轟。バツイチの女優ジェニファーが夢咲ねね、ジョージの弟レオが英真なおき、ジェニファーの親友の女優フェイが早乙女わかば。純文学志向の小説を書くジョージは、12年間連れ添った最愛の妻バーバラを亡くした傷心旅行から帰ってきたのが1幕の最初。
この役のポイントは亡くなった妻への深い愛情、人生のチャプター2へ向かう機会と心の動きだろう。
轟は演技の安定感、存在感、また貫禄といい抜群の実力を見せる。正統派二枚目の男役は益々、渋味を加えていた。それでなくても四人だけの台詞劇。凄い量の台詞をよどみなく早口でまくし立て、陽と陰を演じ分けた。これぞ専科の実力派だ。
夢咲とのキスシーンは2回だけ。ジェニファーは前夫との間で「バカなムキムキマンの背中に爪を立てた」とか、不倫中のフェイは「ベッドの中で何もしない夫婦だった」とか、際どい台詞が飛び出すが、石田の脚色は「性」の表現を巧みに訳し変えていた。
星組のトップ娘役の夢咲だが、大先輩を相手にすると、一皮剥けた大きい芝居になった。遜色のない女の演技だ。それにしてもミュージカルではない久しぶりのストレートプレイは新鮮だった。
(平成26年5月20日)
確信した。明日海りおのトートは、魅力溢れる異色さになる、と。
花組によるミュージカル「エリザベート・愛と死の輪舞(ロンド)」が8月22日から宝塚大劇場で、10月11日から東京宝塚劇場で上演されるが、14日に開かれた制作発表会に出て、明日海にその実感を持った。
発表会は衣装を付けた明日海とエリザベートに扮する蘭乃はなによるパフォーマンスから始まった。明日海が「最後のダンス」、二人で「私が踊るとき」を歌った。その明日海だ。
黒色の衣装、長く伸びた両手の爪には黒いマニキュアが塗られている。「二人の愛は見せかけ」ー。歌う彼女の目付きが異様に光り、視線は鋭く、妖し気なのだった。「死」を生きるトートである。これが第1点。
次ぎに本人の挨拶。
「明日海りおでございます。私は幸運でございまして、トートは3度目になります。プレッシャーはありますが私、最近、ギャップにこだわっておりまして。冷たいようで温かい、それを取り入れようと思っている。いい意味でお客様を裏切るサプライズをーと。あ、こうやるのか、と。大口を叩いてしまって大丈夫でしょうか。作戦を練っています」。観客を裏切る、想像出来ない演技。宝塚大劇場でのトップお披露目となる意気込みが凄い。
演出の小池修一郎はこう話した。
「艶やかな殺気、歌唱力もある。少年ぽいアイドル性が魅力の籠もった情熱を出すトートが楽しみ」
卒業公演になる蘭乃はこう話した。
「明日海さんの新生花組の大劇場お披露目。大変光栄と同時に大きな責任を感じております」
8月22日の初日に上演回数800回を迎え、今公演中に200万人を越える観客動員数となるヒット作。宝塚歌劇100周年の記念公演に新たなページが加わる。
【写真】ℂ宝塚歌劇団 撮影:下村一喜
(平成26年5月20日)
大空祐飛は〝ポスト浅丘ルリ子〟の一番手になるかもしれない。
東京・渋谷のオーチャードホールで上演された「天守物語」を4月26日に見終えた総括だ。東京では27日とのわずか2日間の公演だったが、ヒロイン富姫を演じた大空。今後の舞台での可能性をチラリ、見い出した。
「富姫と言えば坂東玉三郎」と谺が返る強烈な印象が残る。歌舞伎の女形の中でも、この世のものとは思えない美しさと妖艶さで玉三郎の富姫は一頭地、抜き出ていた。
美的な女優は数知れないが、大空の場合、妖し気な空気を放った富姫の役作りは充分に効果的だった。泉鏡花の世界に咲く花に見えた、と思う。宝塚歌劇を卒業して、女優として再スタートになった「唐版・滝の白糸」のヒロインお甲のインパクトも強かった。
女優として鏡花の世界を体現出来たトップはルリ子だった。大空はその後継者に名乗りを上げたと言える。舞台女優としてはまだまだ台詞の高低、メリハリ、強弱に勉強が必要だろう。しかし、鏡花ものの大空は買いだ。
「天守物語」の他で良かったもの。
亀姫の中村梅丸、舌長姫の中村京蔵、薄の青井陽治。
若手の梅丸には次々と抜擢の場を与えたい。「勘定奉行におまかせあれい!」の京蔵はいねむりの場面でもしっかり芝居をしていた。演出家の青井は、よくまあ、たくさんの台詞を覚えたものだ。篠井英介に負けない女形になれる…。
(平成26年5月1日)
和物、特に男役のスターがカツラの髷で演じるのは珍しくなった宝塚歌劇。雪組の壮一帆が主役の東京特別公演、ミュージカル「心中・恋の大和路」が日本青年館で上演された。(4月21日まで)。
歌舞伎ではお馴染みの近松門左衛門の「冥途の飛脚」が原作。瀬戸内美八・若葉ひろみコンビでの初演が昭和54(1979)年。今回が7演目という。
壮一帆が飛脚問屋・亀屋の主人忠兵衛、愛加あゆが梅川。上方の和物のため多少、疑問視していたが、二人の立ち姿は美しく、衣装も似合っていた。
長身の壮はとにかく立ち姿が生える。洋物でも燕尾服を着せたら天下一品。ただし、今回の和服では手足が長いので体を持て余し気味に見えた。
1幕の幕切れ。小判三百両をばらまく、いわゆる〝封印切〟では大罪を犯した絶望感、「世の中、金次第」と歌いながら心が折れていく忠兵衛を全身で演じ、2幕の最後は大和・新口村に落ちた二人が大雪の中、抱き合って命を落とす場面が切なかった。
他に個性的で存在感をバッチリ示したのは花魁・かもん太夫の大湖せしる、亀屋の女中おまんの天舞音さら。特に手代をやり込めたり、てきぱきと働く芝居がテンポよく見せた天舞音のコメディセンスを初めて知った。
瀬戸内の忠兵衛が哀しくも切ない芝居だったと記憶しているが、壮一帆も和物で主役を張れる実績を残した。
(平成26年4月22日)
5月2日に宝塚大劇場で、6月20日に東京宝塚劇場で開幕する宙組公演「ベルサイユのばら・オスカル編」の制作発表が3月12日に行われた。衣装を付けた生徒が「我が名はオスカル」など歌って始まった会見。公演中に通算500万人動員を達成する大ヒット作だが、ポイントを並べよう。
<A>配役
オスカル・凰稀かなめ、ロザリー・実咲凛音。以下は役替わり(ダブルキャスト)でアンドレ・朝夏まなと、緒月遠麻、ジェローデル・朝夏まなと、七海ひろき、アラン・緒月遠麻、七海ひろき。
<B>コンセプト
脚本・演出の植田紳伸爾氏は「100周年に相応しい『ベルサイユのばら』にしたい」
<C>演出
オスカルの誕生シーンから始まり、新たなシーンを迎える。女性への変身はないオスカルだが、ペガサスには乗る、フライングはある。フィナーレに「愛の讃歌」を大階段で合唱する。女性の体の線が出るような黒燕尾服を着用する。
<D>コメント
凰稀。「最高の“ベルばら”を作って参りたい」。最初にオスカルをイメージした言葉は「自ら咲く場所を選ぶ一輪のばら」
朝夏。「100周年の喜びを噛みしめながら精一杯勤めたい」。また「今宵一夜の場面を大切にしたい」
緒月。「今、自分が出せる力を一杯出して精進して参りたい」「何回、オスカルと言っているか分からないけど、そこが好き」
上演回数が公演中に2000回を越える“ベルばら”は新しく生まれ変わる怪物だ。
(平成26年3月21日)
ヨーゼフ・ユアヒム役の澄輝さやとの噛みに噛みまくった司会で行われた宙組「翼ある人びと」(日本青年館)のアフタートーク(2月27日)。参加した生徒5人から「大丈夫ですか?」と励まされ、冷やかされても「ダメだ!」と笑わせていた。
さて、参加したのはブラームス役の朝夏まなと、ロベルト・シューマンの緒月遠麻、クララ・シューマンの伶美うらら、ルイーゼのすみれ乃麗、ユリウス・グリムの美月悠。
公演での失敗談やらエピソードについて水を向けられたトークをまず紹介しよう。
朝夏は「(ピアノの)連弾の時、(相手の)右手がいきなり私の方に来て、時が止まったようにビックリしました」
緒月は「私はないです。いたって淡々とやってます」
美月は「ユリウスはですねえ、一言で言えば、いい役だと思うんですが、明るさだけが得と言えるので、明るくやっています」
朝夏がしゃべる機会が多く、「先生と私、鳥目なんですよ。ちょっとした段差にすぐつまずくんですよ」
これまでに凝った事については-。
緒月。「小物にすごく好きなワッペンをペタッと付けています」
美月。「スキューバダイビング。25時間かけて小笠原諸島に行ったことがあります」。これには一同ビックリ。朝夏が「フルートに没頭していました。泳げないんで…」
伶美は「水泳が得意で10年やってました。学生時代、クラスで一番でした」。これにも一同、エエ~ッ!
この公演は若き日のブラームスを主人公にシューマンの妻で有名ピアニストのクララとの微妙な関係も描かれた。
ベートーベンの「交響曲第5番・運命」やブラームスの「交響曲第3番」などクラシックの名曲が流れたのが心地よい。作・演出の上田久美子が一番好きなのはベートーベンだという。自室にはモーツァルト、ベートーベン、ワグナー、ブラームスらの名曲を収めたフルトベングラー指揮の全集を持っているそうだ。脚本を書いている時、それらの中のどの曲を入れるか考えながら入れたという。
細身の朝夏の美しいスタイル、フランツ・リストを演じた愛月ひかるの黒一色の衣装ときざなオーバーアクションの面白さ。宙組のチームワークの良さも見えた舞台だった。
(平成26年3月21日)
星組トップスター袖希礼音が皇帝ナポレオンに扮した東京公演「眠らない男ナポレオン・愛と栄光の涯に」(3月29日まで)は「宝塚から世界へ発信するオリジナル作品」を目指した意欲作だ。100周年を迎えた宝塚歌劇が力を込めたのはよく分かる。
宝塚歌劇が歴史的な英雄を主人公に据えた作品の場合、演じる生徒にかかるプレッシャーは相当重いと思う。
柚希のナポレオンは常に遠くを見つめている、一人の男を造っていたのが第一印象だった。
最初の登場は机を前に読書するナポレオンがクレーンに乗り、そのまま前進しつつオケピットを越え、銀橋まで届く。天空を駆け抜けた一大のヒーローが印象付けられる場面だ。柚希は、理想を追い求めるように、終始、上を向いていた。覚悟、強い決意が浮かぶことになる。
1幕では4回着替え、妻となるジョセフィーヌとキスを4回。衣装を替える毎に昇進するにつれ、歩き方を変えていた。自信と風格が増していく演技である。2幕は着替えが8回(と思う)。圧巻は戴冠式のマント。皇帝となり、皇后となったジョセフィーヌと超豪華絢爛の恐ろしく長いマントを着けた場面。権力の凄まじさが見て取れた。
頂点へ向かう成長物語でもあるが同時に愛の物語を縦横に組み合わせていく。男の目から見れば、血の通ったナポレオンの一面を感じるものの、政治との格闘をもっと描いて欲しかった。
アルプス越えもサラリと演じられるだけ。しかし柚希ナポレオンは骨太な英雄像は見えていた。
世界へ発信するには手直しが必要だろう。特に群舞。シンプルな振り付けが多く、独創的な面白さをさらに求めたい。それにしても雪合戦はともかく、あの時代、あの国に雪だるまはあったかしらん?
(平成26年2月27日)
大地真央が主演したのは明治座「コンダーさんの恋・鹿鳴館騒動記」(1月27日まで)。寿ひずる、未沙のえるという宝塚OG2人も共演していた。
真央が演じたのは日本舞踊の名手、ヒロインの前波くめ。コンダーさんとは鹿鳴館を設計したジョサイア・コンドルのことで、くめが日本舞踊を教えていた。物語は鹿鳴館で開く舞踏会に洋舞を踊れる日本女性が少なく、くめが一肌脱いで奮闘し、最後はコンダーさんと結ばれる喜劇。
真央といえば名コメディエンヌ。作品の出来は正直言って中級だったが、真央は主に和服を着こなし、真紅のロングドレスに身を包んだり、また黒のタキシード姿の男装などが実に美しく、可愛く、格好いいのだ。ラストでは純白のウエディングドレスでも登場したが、気に入ったのが和服姿での演技。紫色の着物の着こなしでも、両袖を上手に使った仕種には感心した。ヒロインの心情をそのまま観客に伝える手の動き、キレのいい台詞廻しは独特の巧さだった。
【写真】撮影:須佐一心
(平成26年1月31日)
一路真輝の舞台は東京芸術劇場でのミュージカル「シャーロックホームズ・アンダーソン家の秘密」(2月4日まで。以下、2月27日の岩手県民会館ホールまでの巡回公演)。
一路は名探偵ホームズ(橋本さとし)の助手ジェーン・ワトソン。双子の兄弟、その二人から愛される娘ルーシーの失踪事件、財産の相続問題。ジェーンは高い名声を誇る私立探偵ホームズのわがままに翻弄されながら、事件を追う。一路は「真実ゲーム」や「欲しいのはただひとつ」などをホームズ等と歌うのだが、15分強と長い大ナンバーもある。
一路の助手は経理を任されており、借りている事務所の支払いにも困っている。ホームズも「仕事をくれ」と叫ぶが、金銭感覚はゼロ。ようやく受け取った謝礼をすかさず奪い取る一路の演技。そして満足な笑顔を作る場面が面白かった。喜劇を演じるセンスがあるからだ。
韓国初のオリジナルミュージカルの日本版で、一路にとって久しぶりの新作への出演。娘さんが小学生になったそうで、母親として足を地に着けたように見える落ちついた芝居だった。ドンドンと舞台に出ればいい。
【写真】撮影:須佐一心
(平成26年1月31日)
樹里咲穂が出演したのは本多劇場「有頂天家族」(1月26日まで。2月8日は京都劇場)。樹里の役柄といえば男の狸4匹の母親・下鴨の母。雷が苦手だが、宝塚歌劇が大好きで、お気に入りの宝塚スタイルを押し通す。その格好にしても黒燕尾服、赤のネクタイ、黒のシューズに白いチョッキ。彼女特有の細長い足、細めの姿態で動き回り、時に「大曲の花火」をぶっ放すのである。
マイクを持って歌う場面があり、狭いステージ上でダンスも見せ、さすが他のメンバーの中での踊りは際立っていた。しかし、もっと踊りの出番が欲しいと思うのはファン心だろう。
一言でいえばドタバタ喜劇の中で笑いを取るところもあるコメディエンヌぶり。この舞台には「捲土重来」など四文字熟語がたくさん出てきたが、プログラムによれば樹里の大好きな言葉は「笑門来福」。笑う門には福来る…。
タカラジェンヌは喜劇も似合うなあ。
(平成26年1月31日)
12月6日開幕の月組ミュージカル「メリー・ウィドウ」は十分に合格点を出せる上演だった。日本青年館で初日を拝見したが、東京特別公演では久しぶりのヒットだ。
①専科の北翔海莉が主役のダニロ伯爵。抜群のスタイルとキレのいいダンス力。また、演出の谷正純が、北翔が歌い、その横でハンナの咲妃みゆ、カミーユの凪七瑠海を踊らせるという粋な発想が目を引いた。
②何度か出るフレンチ・カンカンのダンス。やはり名曲に乗ったおなじみの迫力ある踊りには胸躍る。
③多分、音風せいやだと思うのだが、将来のスター候補生ではないかと見ていた。
1幕3場のキャバレー・マキシム。客の男6人の中でただ一人、台詞があった。
「このところ、ずっとそれだ。景気が悪いのかな」と「女って残酷だよなあ」という二つ。ちょっぴり若い頃の大地真央に似た顔立ち、明るい笑顔。娘役を持ち上げるような体力と技術を身に付けてほしい。
④ツェータ男爵の星条海斗は別格。彼女は軟体動物か。クネクネと動いた歩行、奇怪な仕種の連発。初日挨拶も「厳しく」を連発した、演出への怨み?のコメントもユニークだった。
そして北翔。青年館の上演があの3・11の前日、3月10日に千秋楽を迎えた舞台以来だという。「不思議な空間に立っている思いです」という挨拶に、舞台に立つ責任と喜びが伝わった。
(平成25年12月26日)
脚本・演出の木村信司によれば、「精神の多面性」を描いた星組の東京特別公演、ミュージカル「日のあたる方へ・私という名の他者」(10月30日まで)。スティーヴンソン作「ジキル博士とハイド氏の奇妙な事件」よりというように、その原作を踏まえた男役トップでは異色中の異色の主役を真風涼帆が演じた。
それは精神科医ジキル、そして彼の中に潜む別人格のイデー。全2幕の中で真風はジキルを10場、ジキルとイデーを4場、イデーを2場も演じ分けた。
終始、硬質な芝居を続けていた真風。特に1幕では自分の隠された生い立ちへの疑念、精神疾患を抱えるマリアを完治させる意思に鋭い眼光が印象的だった。2幕では自分が開発した薬を飲み、とても長い一人芝居のような長台詞の時、ジキルとイデーの入り混じった荒ぶる演技で圧倒した。
ジキルとハイドの善と悪の同居ではなく、精神科医の中に潜んだ多面性という主題を描く主役は難しいヒーローだ。殺人を犯すジキルは黒の毛皮のコートを着る。ここに闇の世界を象徴させた。
ラストのショーではまるで別人のように真風は輝く笑顔になっていた。沈んでいた精神から解き放たれた躍動感。これは真風の両面を見せた舞台にもなった。
(平成25年11月12日)
彩吹真央の方向性と努力を一応、認めたい、と思う。2011年11月の初演から2年ぶりの再演だった。「ロコへのバラード」の感想だ。
ミュージカルの形は現在でこそ様々だが、このアルゼンチンタンゴ・ミュージカルは異色さでは他にあまり類を見ない。その理由の第一は音楽がタンゴであること。第二は書店を舞台にしていること。第三はヒロインの環境だ。
彩吹はブエノスアイレスにある書店の店員マリアを演じた。毎週金曜日に開く朗読会で読む本の世界が動き出す。それは想像であり、幻想であり、また現実でもあるように見える。動き出した世界でタンゴを踊る。
マリアは難病と20年間も闘った姉を9日前に亡くしていた。その看病を続ける内、書物と接する仕事、読書を友とする生活になったのは理解が出来るだろう。一方で、書物の世界と自分の現実とを比べて、夢を見るのも分かる。ミュージカルでは異色の設定だ。
タンゴを踊る彩吹はプロのダンサーと組みながら、ソロでも踊る。長身で細身の肢体を伸びやかに、また、キレのある足使いを見せた。演技ではごく平凡な女性としての店員、そして物語のヒロインとなった美しい姿をまるで別人のように演じ分けた。
タンゴダンスという難しい異色の分野への挑戦。彩吹の目指す方向の一つとして、その意欲は買える。
【写真】ロコへのバラード
(平成25年10月7日)
まるで“レオン丸かじり”のようだった。
星組の東京国際フォーラム公演「REON!!Ⅱ」は柚希礼音スペシャル・ライブ。2012年3月の第1弾に続く第2弾だ。
初演と同様、テーマは大きく言って3つ。1・パワフル(エネルギッシュ)、2・都会的、3・スタイリッシュ。歌にしてもダンスにしても、またトークやコントにしてもその3点に合致していた。
柚希はとにかく出ずっぱり。ACT1の全7景、ACT2の8景。ほぼ全景に登場していた。休憩25分を挟んで、踊りまくり、歌い続け、しゃべりまくる。どこから底知れないエネルギーが湧き出すのだろう。あきれるほどだった。
映像を多用した美術、降り注ぐ照明、会場に満ちる音楽の洪水。星組27名には長身が多いので、足の長さがやたらと目に付く。シティガールの集団であった。
(平成25年10月7日)
宙組の男役トップスターだった貴城けいが岡田浩暉と共演した「テン・ミリオン・マイルズ」を新国立劇場小劇場で見た(8月27日)。
2007年、オフ・ブロードウエイで初演のミュージカル。日本初演だ。全15曲はフォーク・カントリー系。演歌派の当方だが、若き日に育ててくれたフォーク、牧歌的で耳に心地よいカントリーの音楽は感性に合っていた。
貴城は実に素直に、また破綻なく歌いこなしていたが、そうは言っても演じたモリーという女性は難物の役柄である。
数カ月前に出会ったばかりの岡田演じるデュエインと旅を始める。フロリダからニューヨークまでの長距離。この間、妊娠を告白する。デュエインは調子のいい嘘つき青年に見えるし、モリーにしても社会性に欠け、理性より自分の感情のままに行動するような女性だ。二人にとても深い考えがあるとは思えない。ドライブの前半、鉛色の曇り空の中にいるようだ。
結婚するため、教会で中年男女と激しい動きのダンスをする「愛を信じて」。妊婦がやってはいけない踊りだ。馬鹿じゃないか、と思って見ていると案の上、モリーは流産してしまう。彼女には酒浸りの時期もあった。
ここから若い二人に変化が起きる。貴城のモリーは後半、物事を自覚した女性へと成長する。ラストはセミが鳴く夏の日の青い空の中に居るようだ。プログラムによると、高城は今年の始めに「強く、しなやかに」という目標を掲げたそうな。美男の岡田、そして土居裕子、戸井勝海というミュージカルの熟練との四人芝居。
「もつとしなやかに、もっとしたたかに!」。貴城へ贈る言葉だ。
(平成25年9月9日)
8月30日に開幕した東京宝塚劇場の月組公演はミュージカル「ルパン」とグランドレビュー「Fantastic・Energy!」の2本立て。
グランドレビューの作・演出の中村一徳氏が終演後の懇談会で「充実の月組の久しぶりの2本立てで1年ぶりの新作。大作ばかりだったが(レビューは)1時間、皆、踊りっぱなし。さらにパワーアップしました」と話したように、層の厚い月組を見せつけた。
「ルパン」はマサオこと龍真咲がルパン、チャピこと愛希れいかが相手役の令嬢カーラ。龍の怪盗ルパンは黒ずくめの衣装が映え、強奪された400万ポンドの大金を巡る物語とカーラとの恋物語が絡む。ルパンが盗んだのは実は恋人と観客の心-という訳だ。
愛希が良かったのはレビュー。ジターノ女S、赤薔薇の女Sといった場面では伸びやかでセクシー、大柄でもあり、手足の指先まで神経が行き届いたダンスが大きく見える。久しぶりの大型ダンサーだ。新人の中ではラインダンスのロケットで暁千星が飛び抜けて目立った。将来が楽しみだ。
(平成25年9月9日)
東京宝塚劇場の星組公演「ロミオとジュリエット」は歌劇団にとって4回目の上演。ロミオの柚希礼音、ジュリエットの夢咲ねねを見ながら、「へそ曲がり考察」をした。
シェイクスピア作品でミュージカル仕立てとなるのはそう多くはない。「ロミオとジュリエット」は「ウエストサイド物語」という映画化になるのだから、やはりミュージカルには一番合っている。しかし、シェイクスピア作品の特に四大悲劇の主人公は「死」が避けられない。ロミオもジュリエットも死を選ぶのだ。
ロミオは決闘場面で「自分の気持ち(心)に正直に生きる」という。愛こそ全てか。まだ十代で結婚し、そして死んでしまう。モンタギュー、キャピレット両家の積年の恨み、闘いの中で生を受けた運命。若い二人が追い詰められるのはいわば当然だ。自己中心的な愛の破滅ーとも言える。
今公演に移る。
ロミオとジュリエットが最初に登場した1幕3場。ロミオが舞台の前に立ち、ジュリエットがバルコニーに見える。そして「愛」が躍る。この景色が新鮮だ。ロミオがブルー、ジュリエットがピンク系の衣装。二人だけでなく、皆、衣装が良く出来ていた。
仮面舞踏会、ここも巧く見せた。「世界の王」は軽快な歌と場面だ。「愛」という役は太陽であり「死」は月。コントラストとして決して邪魔になってなかった。
見た日のベンヴォーリオは礼真琴。新人公演でロミオに抜擢されたようだが、躍動していた演技。将来性が豊かだった。
あまりに幼い恋。しかし、平和を築くためには若者が犠牲になるのだろうか。「へそ曲がり考察」は若者には死んでほしくない、と思うばかりだ。
(平成25年8月12日)
東京宝塚劇場の宙組公演「モンテ・クリスト伯」で男役トップスター凰稀かなめが、主人公エドモン・ダンテス、後のモンテ・クリスト伯に挑んでいる。
演じているとか、出演しているとしなかったのは、口ひげ、あごひげを付けた扮装での演技に挑んでいる-と考えたからだ。タカラジェンヌ、取り分けトップスターの役柄に「ひげ」は似合うのか?
苦い思い出がある。
名作「風と共に去りぬ」が初演された1977年。この上演を知った時、男役トップスターが宝塚歌劇史上、初めて口ひげを付けるため、その上演を前に出演者の一人となる鳳蘭に口ひげを描いた写真を新聞紙上に掲載した。“反撃”は凄まじいものだった。当時、脇役や老け役以外がヒゲを付けるのは言語道断。作品の発表あたりから生徒の間でもファンの間でも賛否両論の“ひげ論争”が起きており、「何んてことするの!」という主旨の投書や電話が舞い込んできたのを思い出す。
あれから30年。「風と共に去りぬ」は歌劇団を代表する人気作に成長し、何回も上演を重ねた。男役トップスターの口ひげは市民権を得たように思える。
「モンテ・クリスト伯」では凰稀、また、ダングラール役の緒月遠麻もヒゲを付けている。
演出の石田昌也によると牢獄場面を極力短くし、照明の明るさも落としたようだし、凰稀のひげ付きを少なくしたという。しかし口ひげだけでなく、あごひげも伸ばしたダンテスを演じる時の凰稀は気の毒に思える。
それでも復讐心に燃えるダンテスに挑んでいた姿は男役トップスターの“新たな歴史”の1ページとなったのではないか。ただし、トップスターの“ひげ面(づら)”は慎重に吟味してほしいものである。
(平成25年6月2日)
霧矢大夢と真飛聖がヒロインのイライザ・ドゥリトルをダブルキャストで競演した日生劇場のミュージカル「マイ・フェア・レディ」。同じ役で宝塚劇場の先輩・後輩が演技を競うのは気の毒のようであり、興味が湧く企画であり、舞台成果が注目された公演であり…。
歴代のヒロインを調べれば初代の江利チエミ、続いて那智わたる、上月晃、栗原小巻、太地真央、そして霧矢と真飛が6代目と7代目。宝塚OGの那智、上月、大地という演技派トップスターが並んでいた。
さて、今回はどうか-。10点満点での独断と偏見だ。
霧矢 真飛
★幕開けの花売り場面 ⑧ ⑦
★発音練習の場面 ⑦ ⑦
「日向のひなげし」
★アスコット競馬場の場面 ⑧ ⑧
★「じっとしていられない」の場面 ⑧ ⑧
★舞踏会の場面 ⑦ ⑧
-という訳で50点満点の内、霧矢38点、真飛38点。「なあんだ!」というなかれ。引き分け、痛み分けとなった。
詳細を書けば、汚い下町言葉を使う最初の花売り娘での演技は二人とも苦戦していた。「だったらいいな」「や「日向のひなげし」、「じっとしていられない」などの歌唱も本音を言えば合格点ギリギリ。高音、低音の使い方をさらに練習し、出演回数が増していけば上達するだろう。
アスコット競馬場、舞踏会での衣装のドレス姿は真飛はさすがに綺麗、霧矢には強い内面が出た。大地真央というコメディエンヌの印象がどうしても消えないのだが、ブロードウェイの傑作ミュージカルを繋いで行くタカラジェンヌたち。人間としての、女性としての、さらに俳優としても成長物語だから「洗練」がキーワードだろう。
【写真】左・霧矢大夢 右・真飛聖
(平成25年6月2日)
安蘭けい、河村隆一らによるミュージカル・ソングス・コンサート「SUPER・DUETS」を東京公演千秋楽の5月5日にシアターオーブで楽しんだ。
ちょうど中盤辺りの「エレクトリイシティ」で東山義久が絶賛もののダンスで圧倒し、続いて「オペラ座の怪人」のテーマ曲「ザ・ファントム・ジ・オペラ」で河村隆一とAKANEがこれまた卒倒しそうなデュエットを披露。“ヘンなジジイ”にすれば、これだけでゲップが出る特盛りでお腹いっぱい。
そんな中、わが安蘭は二つの“見せ場”で河村、東山に対抗した。
一点目は「聞く」と「聴く」。
「聞く」はトークだ。いきなり「私、安蘭ケータイデンワです」と自己紹介を始めて、まず観客の心を鷲づかみ。宝塚歌劇の後輩、AKANEとはやや楽屋内のおしゃべりだったが、美形の二人のトークは見ているだけでも目の保養になった。
「聴く」はもちろん、歌唱。特に珍しく「ビツグ・スペンダー」は歌手安蘭の本領発揮だった。
二点目は「見る」。
彼女は衣装が三着。まず鮮やかなイエローのロングドレスで出る。股が大きく割れて、左足をギリギリまで露出した。二着目はブラックのミニドレス。両足には黒のタイツ、黒の鬘。これで階段を降りてきた姿は、エロティックでなかなか、いける。
三着目がレッドのロングドレス。燃える心意気で絶唱したのである。
歌の河村、ダンスの東山、魅せる安蘭。黄、黒、赤の原色が安蘭に映えた。
9月にはシアタークリエでミュージカル「ネクスト・トゥ・ノーマル」のダイアナ役、12月には東京国際フォーラム、大阪・梅田芸術劇場でミュージカル「チェス」コンサートが待つ安蘭ケータイデンワ。オペラ座の怪人風に言えば、「歌え!踊れ!翔べ!」。
(平成25年5月8日)
ブロードウェイ・ミュージカルの傑作「南太平洋」が星組によって日本青年館大ホールで上演された(4月5日~10日)。
男女2組の恋と別れを中心に描く。南太平洋に浮かぶ美しい島が舞台。フランス人農園主エミール・ド・ベックとアメリカ人従軍看護婦ネリー・ファーブッシュが主役カップルだ。宝塚歌劇による1984年の初演は月組の剣幸、春風ひとみのコンビだった。
今回は専科の轟悠と、抜擢された星組の妃海風のコンビ。もうひと組は海軍中尉ジョセフ・ケーブルと土産物屋を営むポリネシア人のブラッディ・メリーの娘リアット。真風涼帆と綺咲愛里のコンビだった。
「恋はいつでも突然始まる」と話してからエミールの轟が歌う「魅惑の宵」。「空と海を結ぶ島、おいで、おいで」とメリーの英貴なおきが歌う「バリ・ハイ」。名作に名曲あり-がミュージカル成功の分岐点。含み気味のソフトな声の轟はこの役でもダンディである。
敢闘賞ものは英貴。スローテンポの名曲だが、バリ・ハイという島が見えてくるような、また、島の物語が想像できる見事な歌唱力だった。
アメリカ・ニューヨークへ4970マイル、ボストンへは5057マイル、日本へは3850マイルのこの島。南太平洋の島は肌や目の色の違いを超えた人間のあり方を教えてくれるという。一方で、このミュージカルはブロードウェイで初めて人種問題を扱った作品でもある。偏見、差別という苦いテーマも歌われる。
「バリ・ハイ」の歌詞にある「空と海を結ぶ島」とは、違った肌の色の男女を結ばせる意味と重なるのが分かる。
約60年前にブロードウェイで初演された「南太平洋」だが、世界は今だに戦争が絶えず、偏見と差別は消えていないのが事実だろう。台湾公演が予定されている作品。演出の原田諒(31)は主題をしっかりと見据えていた。
(平成25年4月10日)
見た、驚いた、すっかりファンになった。
それはOSK日本歌劇団というレビュー集団だった。日生劇場で見た「春の踊り・桜咲く国」。創立90周年記念の公演であり、記念を機に73年ぶりの東京公演は4月5日から8日までわずか4日間、全6回の短期だった。
見たのは初めて。東京にはかつてSKD(松竹歌劇団)、NDT(日劇ダンシングチーム)がレビューの華を競う時代があった。また、宝塚歌劇団は東京公演を定着させて100周年を迎えようとしている。現在はSKDの流れを守り続ける「スタス」が東京レビューの灯を燃やし続けているだけだ。
大阪を本拠地にするOSKの存在は承知していたものの初めての観劇とは恥じ入るばかりだ。
驚いたのは、いくつもあった。
第1部「桜絵草紙」は日劇レビュー。その第1景プロローグが元禄若衆と娘たちの総踊りで幕が上がった。「春のおどりは、ヨーイヤ、サー」。懐かしい光景だった。レビューの幕開けはこうじゃなくちゃ。レビューは総踊りから始まるのが決まりでしょう。
次ぎに驚いたのがトップスター桜花昇ぼる。凛とした立ち姿の男役。一つだけではない多彩な笑顔の表情。しなやかな動きのダンス。文句なしの存在感にビックリした。
まだある。
22人による整然としたラインダンス、劇団のテーマソング「桜咲く国」に合わせて桜色の傘をクルクル回したり、パッと開いたり、スッとつぼめる名物のフィナーレ。そして全ての景にスピード感が溢れていた。OSK、やるじゃないか。
カーテンコールで挨拶した桜花が、さらにいいのだ。東京宝塚劇場では花組が公演中なのだ。「まさか、宝塚さんの隣で公演ができるなんて思ってもいませんでした」。テレたような笑顔に拍手喝采だった。
OSK、そして桜花のファンになってしまった。
(平成25年4月10日)
来年で100周年を重ねる宝塚歌劇団で最大のヒット作「ベルサイユのばら」が東京宝塚劇場でも幕を開けた(3月24日まで)。
7年ぶりの上演だ。1974年の初演以来、来年で40周年になる。
作品についてくどくど書いても仕方ない。まずは、さすがに“ベルばらのフィナーレ”というのを書こう。
オスカルの龍真咲(所見の2月20日)、アンドレの明日海りおがガラスの馬車に乗って天空へと駆けて結ばれる第14場の後からフィナーレが始まった。
そのフィナーレCから大階段。ばらの淑女34人が整然と並び、踊るのが圧巻だ。ばらの紳士Sの龍、淑女Sの愛希れいかが小粋に踊った。
次のフィナーレD。トリコロールを基調にした衣装のロケット32人。フランスの香りをプンプンと漂わせて勢いのある若手たち。大階段から降りて本舞台で居並ぶのは初めて見た気がする。
そしてフィナーレEはボレロ。これも大階段を使って龍と明日海のデュエットだった。
大階段の色調はピンクが基本。広大に描かれたバラの花が浮き出ており、それが様々に変化する。宝塚歌劇のフィナーレといえばトップ、準トップが背負う大羽根が代名詞。しかし、この“ベルばら”に限ってはオスカル、アンドレの衣装のままなのである。これがシンプルであり、また新鮮に映った。
初演から見続けてきた“ベルばら”。まだ若かった頃の当方は「ベルばら日記」という連載を取材し、書き続けたのを思い出す。龍のオスカル、明日海のアンドレ。新時代の二人はどこまでも甘く、切ない愛を歌っていたのが印象的だった。
(平成25年3月11日)
副題に『許されざる者への挽歌』と付いた雪組の特別公演「ブラック・ジャック」(2月22日~27日)。強烈な股関節の痛みを堪えて、日本青年館へ出かけた。
黒いスーツ、黒いブーツと黒づくめの主人公ブラック・ジャックは未涼亜希。謎が多いこの“神の手”を持つ医師に何とか当方の痛みを治してほしい-と願いながら拝見したところ、いつしか黒の魔力に見入っていた。
謎といえば顔面左半分のアザの理由は?
頭髪右半分の白毛はなぜ?
本名や素性も明らかではない。法外な治療費を要求するのはどうしてか?
原作を知らない人にとっては謎がいっぱいの人物だ。
分かってきたのは「思い起こす」、そして「かわらぬ思い」という二つのキーワード。
若き日に負った大怪我を治してくれたのが恩師・本間先生。自分の患者には命をかけて治す。とにかく原作の面白さをそのまま入れ込んでいるのだろう。ストーリーが実に面白い。謎も徐々に明らかになってくる。
1994年の安寿ミラ主演以来、20年ぶりの上演だった。奇想天外さ、シャープな演技とスタイルで主人公に迫った追った未涼。わき役のバイロン侯爵の夢乃聖夏、青年カイトの彩風咲奈が個性的で存在感を見せた。
歌舞伎の世界では「黒」は見えないというのが約束。宝塚歌劇では、神聖で神秘的に映える。
大宇宙の中の青く輝く星・地球に生まれてきた奇跡。テーマ曲「かわらぬ思い」の、生まれてきた奇跡を思い起こせば-。命という奇跡を日本人よ、思い起こせ!
(平成25年3月11日)
敗者復活戦という表現があるが、宙組の東京特別公演「逆転裁判3・検事マイルズ・エッジワース」(1月23日~28日。日本青年館)は男役トップの役柄としては珍しいテーマではなかろうか。
主人公エッジワースを演じた悠未ひろは、最初に「迷い道」を歌い、その解決を求めて原点回帰の故郷カリフォルニアに向かい、そして負けた男の未来、つまり新たな勝利を目指して行く-。七転び八起きというが、天才検事が初めて敗北したショックから立ち直るのは、失敗続きの凡人にとってはなかなか想像し難い。しかし、そこはシリーズ3作目の人気ゲームソフトの舞台化。敗者は立ち直り、勝者へ向かって逆転して行く。
長所。エッジワースの衣装がまるで場違いのように派手で個性的。これが検事が着るものかいなと思わせるが、悠未がダンス場面で片方の襟を大きく広げると、これが目立つ。
次ぎが、右手の人指し指を一本だけ突き出して見せるお馴染みのポーズ。体を傾けて、両足を大きく開いた悠未は、闘う検事ぶりが似合った。鈴木圭の演出は、おどけたポーズやマンガチックな演技が多かったがシリーズ化へ充分なエンターテイメントではあった。
(平成25年2月1日)
辛口の観劇記を書く。
普段からの持論だったが、我が意を得たり-という一文によって確信に変わった。それは植田紳爾氏の至言。
東京宝塚劇場の星組公演(1月2日~2月10日)がその見本になった、と思う。
珍しく3部構成の宝塚ファンタジー「宝塚ジャポニズム~序破急~」は日本舞踊によって構成されていた。
その第2部「破」の弥勒菩薩、そして第3部「急」の荒城の月で見た松本悠里が素晴らしく、「さすがだ!」と唸ったものだ。
はっきり言ってトップの柚希礼音、夢咲ねね、さらに言えば全生徒のお手本になる踊りを披露してくれた。
「破」では弥勒菩薩に扮しているが、良かったのは「急」の荒城の月。淀君の役である。他の生徒たちと全く別物の踊りになっていた。
何が違うか。
それは踊る役柄の性根が違った。しっかりと摑んでいるから、踊りが若く、初々しいのである。従って美しい舞踊になるのだった。現役時代から踊りに定評があり、名手だった。専科に入って、また一段と上の名手になったのはよく知られている。しかし、振りの確かさ、豊かさ、役柄がよく分かる技量。他の生徒と言えば、ただ習った振りをなぞっているだけのようにさえ思えた。
作・演出の植田紳爾氏はプログラムにこう書いた。
「洋楽でやる日本物レビュー、これは宝塚歌劇の財産、伝説だ。これを守る」。この公演では花柳壽輔、山村若、西埼眞由美の-家元に振り付けを依頼していた。随分と以前のことだが、踊りを教えるある舞踊家が「今の生徒は日本舞踊に真剣ではない。だから上手くならない」と話してくれた。植田氏は「日本物のルネッサンスを」として発想の逆転を求めている。諸手を挙げて賛成だ。日本舞踊は踊りの基本、宝塚歌劇の原点だ。松本悠里はそれを身をもって示す舞台だった。
(平成25年1月31日)
野々すみ花が蜷川演出の強烈な洗礼を浴びている。
午後6時30分に開演し、終わったのが午後10時50分。さらにカーテンコール。初日の12日、シアターコクーンでの「祈りと怪物」。超、超、超、長い怪物のようなケラリーノ・サンドロヴィッチの新作。ケラ版に続く蜷川版演出で野々が宝塚退団後、初の舞台に選んだ作品だった。
洗礼の第一。彼女の最初の役がカッサンドラ。「宝塚では優等生としてやってきたから、今度の舞台ではお土産として別のものを持たせてあげる」と蜷川が与えた役柄だと、プログラムで彼女は話していた。
ギリシャ神話に出てくるカッサンドラは悲劇を予言する王女。幕開け草々に出てきた野々。白い衣装をまとい、ダンスのような舞踏のような動き、顔といったらあの綺麗な面影のかけらもなく、鬼面のようだった。
もう一役は洋服の仕立て屋の娘レティーシャ。男手ひとつで育てられ、家から出ると被害を受ける危険があるから父は外出を心配するが、危険な若者に目を付けられてから、運命が回転し始める。
恐らく徹底した演出を受けたのだろう。人間を超越した女と清純な娘。演じ分けは簡単ではなかったはずだ。女優陣には三田和代、原田美枝子、中嶋朋子、宮本裕子、渡辺真紀子というストレートプレイの猛者ばかり。稽古、本番を通じていい経験をした。
タカラジェンヌから女優に転身し、演技派になった先輩には麻実れい、久世星佳らが近年の代表格。狭き門でもストレートプレイの世界を担う手は、ある。
(平成25年1月16日)
何たって、樹里咲穂。圧倒的な「おバカ女」に笑って、驚いて、感心してしまった。「ワイルドだったぜ!」
新国立劇場で上演されたミュージカル「プロミセス・プロミセス」(12月15日~23日)だ。原作といえば名匠ビリー・ワイルダー監督の名作映画「アパートの鍵貸します」。1960年のこの作品ではシャーリー・マクレーンの可愛いこと、ジャック・レモンの軽妙な演技に唸ったものだが、ブロードウェイのミュージカルでも上演されていた。
保険会社の社員チャックと食堂のウエイトレス、フランとのロマンチックコメディだが、樹里の役マージが凄い。
何が凄いって、バーで客に酒をねだり、夜な夜な男漁りをする淫乱のような女性。プログラムで本人の解説によれば「セクシーであり、チャーミングであり、おバカであり、全体に少し危険な香りのする女性」。
宝塚歌劇出身が5人、元四季が9人。樹里はそんな中で、強烈な存在感の女性マージを強烈な個性と存在感で見せていたねえ。
一幕では全く登場しないで、出番は二幕だけ。出番こそ少ないが、優しい独身男のチャックを攻めまくり、押しまくり、挑発しまくる。自分からは絶対に求めず、誘っていないと言い張るヘンなプライド。長い足を股間まで見えそうに跳ね上げて、足を組んだり、よだれを拭って、唇を押し付ける強引なディープキス。これが愉快、愉快。
こんな据え膳を断る男はそうはいないのにチャックははねつけてしまう。
2年前にブロードウェイ版を見ているという樹里は待ってましたという役どころらしい。最近、個性的な役柄が目立っていたとは思っていたが、もう一段上がったコメディエンヌの樹里に拍手!
主役フランと大和悠河はいつ見ても抜群のスタイル。もう少し、歌唱力が付けばねえ。一方、Wキャストのチャック役、藤岡正明が上出来の上。何たって歌が上手い、三ツ星でした。
(平成24年12月25日)
日本青年館大ホールで11月22日~29日に上演された花組の東京特別公演「蘭寿とむコンサート・Streak of Light・一筋の光」。蘭寿にとって2度目のコンサートだが、タカラジェンヌならこれ以上、幸せな舞台はそうはない。
2幕構成の全29景のうち、蘭寿はなんと18景に出てくる。しかも、役名の1幕が「TOM」、2幕・1が「トム」、2幕・2が「タカラジェンヌ(紳士)S」。丸ごと、彼女の彼女による彼女のための公演なのだった。
舞台上にオーケストラ。まずは「歌」から始まる。「ハロー、元気かい!」。左手にマイクを持って、3場ではステージを降りて客席を回り握手したり。4場Bからダンス。ブーツを履いて踊った。ここまでの注目が髪形だ。ちょいと変わっている(見てのお楽しみですな)。
6場Bから再登場すると、タンゴになる。ソロ、蘭乃とのダンス。髪形を変えていた。
そして2幕・2では自身が作ったという歌「一筋の光」。黒の燕尾服、髪も3回目の形になっていた。
「人生の喜怒哀楽をダンスで表現してみました。私の詞。オリジナルバージョン。とっても嬉しかったです」。そんな挨拶もあった。12月5日から17日まではシアター・ドラマシティ公演。「蘭寿オン・ステージ」はもう一段の飛躍へのジャンプ台になった。
それにしても、月央和沙のダンスは驚き。一人、踊りが違っていた。美しい!
(平成24年12月25日)
「愛、それは甘く…」の歌声に乗って“ベルばら”が帰ってくる。
来年草々に上演される月組公演「ベルサイユのばら・オスカルとアンドレ編」の制作発表が19日に行われました。
出席した生徒は月組の龍真咲、愛希れいか、明日海りお、花組の蘭寿とむ、壮一帆。そして原作者・池田理代子、小林公一理事長、演出の植田紳爾ら。
初演が1974年。今回は龍と明日海がオスカルとアンドレを役替わりで演じ、宝塚大劇場公演では蘭寿と壮(12月25日付けで雪組に組替え)がアンドレ役で特別出演するのが話題でしょう。
発表会はパフォーマンス、挨拶、質疑応答、写真撮影の順でした。パフォーマンスは龍がオスカルの「愛の巡礼」、明日海がアンドレの「心のオスカル」、続いて、ロザリー役の愛希も参加してテーマ曲「愛あればこそ」を扮装姿で歌い上げた趣向。
挨拶、質疑応答では龍が「オスカルとアンドレの龍です。『ベルサイユのばら2001』が初舞台。再びの出演でご縁を感じます。この作品で成長していきたいと思います」
愛希は「漫画より先に『2001』を初めて見ました。原作から出たように思えました。この役に出られて幸せ。今から楽しみ、ワクワクしてます」
そして明日海。「今までお家で本を読む側だったので光栄です。3役(オスカルとアンドレ、さらにもう1役)の役替わり。体力をバッチリ備えて、私なりのオスカルを作り出せたらと思ってます」
蘭寿は「宝塚の宝のベルばら。オスカルをより深く愛し抜きたい」
“ベルばら”は5回目の出演、アンドレも演じた壮は「その経験を自分自身へのパワーへと変えていきたいと思います」
演出の植田氏によれば、馬車に乗ったオスカルとアンドレがクレーンによって馬車ごと空中、天国に上がっていく最後が目玉だという。「夢とロマンと愛に溢れた世界にしたい」と話していました。
【おまけ】オスカル役は初演の榛名由梨以来、安蘭けいまで21人が演じてきており、龍が22人目、明日海が23人目になる。また、アンドレは初演の麻生薫から始まり、壮まて27人。龍が28人目、明日海が29人目、蘭寿が30人目となる。公演は1月1日~2月4日・宝塚大劇場、2月15日~3月24日・東京宝塚劇場です。
【写真説明】宝塚歌劇 月組公演「ベルサイユのばら~オスカルとアンドレ編~」 龍真咲(オスカル 写真右側) 明日海りお(アンドレ 写真左側) C宝塚歌劇団
(平成24年11月26日)
侯爵家の美貌の長男松枝清顕は、明日海りおにピタリと嵌まった役だった。
月組の東京公演「春の海」(日本青年館、10月31日~11月5日)。時は大正元年。学習院高等科1年の18歳。“きよさん”と皆が呼ぶ主人公は禁断の愛の海を渡る。「ぼくは海を渡る旅人」と言い、その少年期、父は「桜のように美しい」と例えるのだが、当人はしかし「青年となって何かが足りない」旅人だという。
三島由紀夫美学の「美しく滅ぶ」。悲劇のヒーローである。
さて、例によって、ミニトークショー(1日)が行われた。進行役が清顕の親友・本多繁邦を演じた珠城りょう。いささか(少し遠慮気味の表現です)心もとない進行ぶり。これが、何と空気を和ませ、笑いを誘う。
トークショーのお題は「私はこの作品のここが好き」。挙手での発言。これを順不同で紹介しよう。
明日海「私は本多がすご~い、かわいいと思ったのは縛られるところ」
咲妃みゆ「一番最後。きよさまで一人歌い上げているところ。あと、蝶々を追いかけていく時、何とも言えないステキだと思ったのが、後ろを向いた時の姿」
宇月颯(はやて)「飯沼(自分の役)的には、お前しっかりしろ。自分的にはどうしてダメになったのか~なんだとか」(と意味不明?)
鳳月杏「出番が前半ゆっくりなのでモニター見ています。花見の登場が好き」
珠城「1幕の雪見の馬車。雪景色の中、まだ真剣にしているところが好き」
舞台を見ていない人には何やらチンプンカンプンでしょうが、公演終了直後のトークショー。大いに盛り上がってましたゾ。
(平成24年11月12日)
新生宙組がスタートを切った。
凰稀かなめ(初舞台・2000年)、実咲凛音(2009年)のお披露目公演だ。晴れのその舞台が話題作「銀河英雄伝説」。東京宝塚劇場で見たその宙組の公演は先行きが楽しみになった-というのが正直な総括だ。
良かった点。
その1。これはあくまで独断と偏見を含めて、個人的な考えだが、宙組の“伝統”が生きていたこと。「宙組」という第5の組(雪、月、花、星、宙)には誕生当時から、生まれたての赤子を見守るジジイのような思いがあった。
健康に育ってくれるだろうか。姉たちに負けない組になってくれるか。まだ短い歴史しかないが、「若さ」、「新鮮」、そして「挑戦」というキーワードがあった。一方で、危なさ。チームワーク、作品の選定、トップの存在感など。
大空祐飛、野々すみ花からバトンを受けたりかさんこと凰稀、りおんこと実咲の新トップ誕生。3つのキーワードがしっかりと受け継がれてきた。
その2。装置、衣装がいい。特にいいのが音楽(作曲・編曲・太田健)。小池修一郎の演出はあくまでスピード感がある。戦闘場面(アクションシーン)は群舞だけでなく殺陣を入れて欲しかったが、振りも多彩だった。
その3。雪組から加入したヤン・ウエンリー役の緒月遠麻(初舞台・2000年)、花組からのキルヒアイス役の朝夏まなと(2002年)、さらに実に個性的だったパウル・フォン・オーベルシュタイン役の悠未ひろ(1997年)。層が厚くなった新生宙組。「銀河英雄伝説」パート2に期待したい。
(平成24年10月30日)
星組の近未来が楽しみですな。
日本青年館の東京特別公演「ジャン・ルイ・ファージョン~王妃の調香師~」を見て、そう思ったのでした。
主演の紅ゆずるがタイトルロールのジャン・ルイ・ファージョン役。初舞台からちょうど10年目の紅。作・演出の植田景子は上手いところに目を付けたねえ。香水商で調香師。それも王室御用達。王妃マリー・アントワネットに秘めた思いがある。
紅には「花」がある。うりざね顔というか身長とのバランスがいい大きさの顔に「憂い」を感じるのですな。確か、初主役ではないか。革命裁判の幕開けでは背中を向けていたけれど、向き直した時、パッと花が咲いたようなスター性を出したのが将来性十分。
早乙女わかばがマリー・アントワネット。初舞台から4年目。夫であるルイ16世、愛人ハンス・アクセル・フェルゼン伯爵、そしてファージョンという3人の愛、王家に殉ずる強い意志をしっかり演じたのがお手柄でした。
真風涼帆がフェルゼン伯爵。さすがに初舞台から6年目。キレのいい台詞、アントワネットを守り抜く強い意志、気品もあった。
以上の3人は間違いなく将来の星組の中心になるのでしょう。そして、紅がオスカル、真風がフェルゼン、あるいはダブルキャストが役替わりで「ベルサイユのばら」を見られる日がやってくると思うのですな。
おっと、忘れてはいけない。
一人の男役が目に付いたのでした。その名は、瀬稀ゆりと。ファージョンの部下、エドモン、さらに判事、指揮官といった役すべてで個性を見せたと思った次第。6年目だから真風とは同期。笑顔が初々しく、特に口元の動きが色っぽい。異色なタイプの男役として飛躍を期待してますぜ!
(平成24年10月1日)
東京・浜町の明治座八月公演「大江戸緋鳥808」で大地真央、湖月わたる、貴城けいの元男役トップスター3人、プラス専科の大御所だった末沙のえるが揃い踏みをしている。この4人それぞれが新たな側面、魅力を発揮しているのが注目される。
まず真央。花魁高尾太夫、謎の女・緋鳥、実は女忍者「くノ一」という屈折した役どころ。花魁道中やら立ち回り、町娘の扮装などコスチュームプレイでも魅せるが、堂々とした座長ぶり、しっとりとした落ち着き、風格が増した舞台。結婚後、もうひとつ厚みが増したようだ。
湖月の若衆姿が凛々しく、将軍家綱の一人娘、直姫といった役柄が合っている。和物の男装姿、前髪の鬘がピッタリ。殺陣が堂に入っているのには感心しきりだった。
貴城は絵師の参次(東幹久)を慕う町娘お七。小袖の着物を纏って疾走したりと、おとなしいだけではない娘である。
この3人、二部のフィナーレで“ミニショー”を見せるが、これが大サービス。ラスト15分間、真央から衣装のまま歌い始め、次に貴城、そして湖月、さらに3人揃ってから最後が真央。4日の初日にはカーテンコールで観客がスタンディングオベーション。緞帳が3回上がったという。月、星、宙組というかつての夢のトップスター競演に沸いたのだろう。
最後に末沙のえる。この2月に惜しまれて長いヅカ生活からサヨナラとなっての初舞台。この人の実力が証明される舞台になった。長屋の大家さんのお藤。身体の芯が強いのだろう。台詞はしっかりしているし、花園から自由な空に飛び立った鳥のようにイキイキとしていて抜群にいいのである。「私の若い頃とそっくり」などとかつての同期、真央と顔を見合わせて笑わせた。この人、舞台で貴重な脇役になる。そう、確信した。
日本青年館大ホールで上演された雪組の東京特別公演「双曲線上のカルテ」で一人のひょうきん者の生徒に楽しませてもらった。組替えで雪組に加入した夢乃聖夏だった。
観劇した8月9日のマチネーで行われたトークショー。これがやけに面白かった。そこでの夢乃。トークショーの並びは下手から司会・奏乃はると、夢乃、早霧せいな、星乃あんり、大湖せしるの5人。終演直後なので全員が衣装のまま。奏乃は司会に慣れていないのか緊張していたのか、チグハグな進行ぶりがかえって笑いを誘った。
その最初の質問は会場と作品について。
早霧が「バウホールと空気が違う。反応もチラオーラ。バウと違って新鮮です。ドカッと笑ったり…」。
続いて大湖が「面白かったんですかねえ?」と答えると会場から拍手。この次だ。
「何でもいいですから」と奏乃が呼び水を向けると早霧が「この公演から雪組に加わった」と夢乃を紹介。そこで彼女だ。「毎日毎日、優しく温かく笑いかけてくれたり、小ギャグを言ってみたりしてすっかり馴染んでいる気がしてるんですけど…」
すると早霧が追い打ち。「自分から笑ってますね。求められてないのにギャグを言ってますね。私が煮つまっていると小ギャグ。それが理解できない」。同期の二人は14年の付き合いだという。
大湖と楽屋が一緒の夢乃は「(大湖が)女役を研究しているので凄いなあーと思ってます」。一方の大湖は「スカート履くと凄く(娘役を)意識するんですよね」と大柄な身体を小さく見せた。
最後に質問が、何になりたいか?
ここで夢乃が言った。「いろんなものになりたいんですよ。ひまわりとか聴診器とか」。これには全員が意味不明といった不思議な表情と大笑い。特に笑いを取っているのではなく自然なひょうきん者なのだろう。
一幕で「砂に消えた涙」、二幕では「月影のナポリ」「チャオチャオバンビーナ」といった懐かしい流行歌が流れたのが、団塊世代には嬉しい限りの作品。早霧が、自分の子供としてラストに登場する無名の「男の子」に「フリオ」という名を密かに付けているのを明かしたトークショー。夢乃の加入で、一味違う雪組になりそうだ。
宙組・凰稀かなめ、実咲凛音のお披露目公演「銀河英雄伝説」の制作発表会が7月12日、東京宝塚劇場で開かれた(公演は8月31日~10月8日・宝塚大劇場、10月19日~11月18日・宝塚劇場)。
異例の劇場発表で主な出演者8人がステージ上で次々とプレイを見せてスタート。ラインハルト役の凰稀、ヒルデガルド役の実咲を始め悠未ひろ、緒月遠麻、朝夏まなと、蓮水ゆうや、凪七瑠海、七海ひろきが時計回りの回転舞台から一人一人、踊り、歌う。実咲だけが白を基調の衣装、7人は黒を基調にした戦闘服が勇ましい。
演出の小池修一郎が「正味2時間強、原作の冒頭2巻をやる。複数のスターが活躍するのがお披露目の門出にいい」と説明した。
トークショーでは凰稀が「多くの方々に愛されてきた作品の初舞台化は幸せ。心を込めて勤めて参ります。新生宙組をよろしく」と挨拶。実咲は「すごい大きな作品だと衝撃を受けています。男役さんと同じズボンを初めて着ました。いろんな思いが入っています」。凰稀が実咲について「繊細で他の人にないものがある。この娘(こ)は天然だと思う」と笑わせ、小池が「凰稀が入って宙組はモダンティという組が強調される」と話し、8人全員が色違いのコンタクト(主役はブルー)を入れているそうで、戦闘場面は映像とダンスで技能の限りを尽くす、SFファンには待ち遠しい公演になる。
8月5日まで上演中の星組「ダンサ セレナータ」と「セレブリティ」。先日、公演後に柚希礼音と夢咲ねねのトップ2人が懇親会に現れた。
「ダンサ セレナータ」でクラブのトップダンサー・イサアクの柚希。役柄については「エゴイストに徹しています。(モニカを)いつ好きになったのかわからないので(演出の正塚晴彦さんに)何度も質問しに行った。まず、踊ってから惹かれていき、そして本格的に」。その正塚には「台詞を忘れろ。相手の台詞に集中していれば出てくる、と言われたんですが最近、本当に忘れるんですよ」と目が笑っていた。暑い夏、それに熱演。「睡眠がゆ時間では足りない。10時間欲しい。眠くなるのでまるで小学生くらい早く寝ています」。モニカの夢咲も「塩分を取っています。取らないとおかしくなります」。
ダンサーの恋物語で、2人のダンス場面はさすがに魅せられる。長身同士だからダイナミック。長い足にも驚きだった。
宝塚時代の歴代キャストがこぞって顔を揃える「エリザベート スペシャル ガラ・コンサート」の制作発表会見が6月28日に行われた。現役時代からオーラを放ちまくったトップスターが集まり、OGとなってもなお放つオーラに目が眩むようだった。
出席者の席の並びは記者席から見て中央に小川知次・梅田芸術劇場社長、上手のその隣からトート役を演じる一路真輝(雪組)、姿月あさと(宙組)、彩輝なお(月組)、春野寿美礼(花組)、下手の中央に三井住友カードの島田秀男社長、その隣から構成・演出・訳詞の小池修一郎、エリザベートを演じる花總まり(雪組)、大鳥れい(花組)、白羽ゆり(雪組)。一路、彩輝、春野の服が黒色を基調、姿月、花總、大鳥、白羽が白色を基調にしていた。個性を主張しているスタイルに見えた。。
一路の挨拶。「16年ぶりにトートをやらせていただく一路真輝です。16年の月日、ひと言でいえば長いような短いような私の人生、色色ありましてー。あの当時のメンバーが集まることが楽しみで興奮しています。トップスターが死神とは何事かと言われたのを思い出します」
次ぎに姿月。「14年ぶりのトートです。雪組さんの初演を見てほんとに感動し、涙が溢れました。歴代のトートを見せていただいています。14年ぶりに花總さんとご対面ということで、楽しみ。2度と戻らない時間となりますので」
彩輝が続く。「退団公演が『エリザベート』。7年ぐらいになりますが、アッという間。思い出すのはあの緊張感。蘇ります。節目節目でトートとなった大切な作品。渾身の気持ちを込めます」
春野は2002年にトップスターになったお披露目公演の作品だった。「その時は右も左も分からず重圧に押されて、相手役が退団公演の大鳥れいさんで、大鳥さんに引きずり回されたよね(と大鳥の方を見る)。それを思い起こすのを楽しみながらやります」
エリザベート役になった。
まず、花總。「私も、何といっても初演メンバーがこれだけ集まり、もう一度、顔を合わせるなんて、感動の渦の中にいます。もうどうしようと、無我夢中で一路さん、小池先生に泣きついたのを思い出します」
大鳥になった。「え~、また、こうしてエリザベートに出られて嬉しいし、気が引き締まります。今、自分が感じられることを大切にしてやりたい」
最後が白羽。「まずは、このようにもう一度、出演、挑戦することが嬉しい。私のお披露目公演でした。娘役、役者として変わらなければと思っていた時代。懐かしく感じます。新しい発見があると思うので、新しい気持ちで挑戦します」
各自が初演した時の鬘(かつら)が今どうなっているかとか、鬘の色の違いなどの話が出た一方、小池修一郎が今回、特別出演する紫苑ゆう(現在は宝塚音楽学校講師)について「この作品をやってから辞めるのだったーと悔しがっていた。果たせなかった夢が叶うならと出てもらうことになった」と裏話を明かしていた。
公演は11月6日~21日に東京・東急シアターオーブ、11月25日~12月3日に大阪・梅田芸術劇場で上演される。
「射手座の人は好きよ。信頼できるわ」。
この台詞が気に入った。何を隠そう、当方の星座が射手座でしてー。
それはともかく、ミュージカル「サンセット大通り」(東京・赤坂ACTシアター)には宝塚歌劇出身が4名出演していた。安蘭けい、彩吹真央、彩橋みゆ、福麻むつ美だ。
それはともかく、安蘭けいである。
名匠ビリー・ワイルダー監督の傑作映画で知られる原作のミュージカル版。
銀幕復帰に賭ける無声映画の大スター、ノーマ・デズモンドが安蘭の役どころ。栄光の日々を追憶し、若い貧乏脚本家ジョーとの恋と失望、そして挫折と狂気。女優なら誰しも演じてみたいだろうが、そうはいかない。光り輝く大スターとしての美と華、五十歳という年齢の人生の年輪、際立った演技力や歌唱力が求められるからだ。
安蘭が所属する主催のホリプロは、即座にノーマ役に決めたようだが、安蘭は期待に応えてピタリと嵌まっていた。そう思えるのは、彼女が無声映画時代のスターと見えたからに他ならない。目、鼻、口元までの顔つき、そして細身の姿態。モノクロ、あるいはセピア色のイメージになっていた。
田代万里生演じるジョーに言う、「射手座の人は好きよ。信頼できるわ」、そして久しぶりに訪れたパラマウント・スタジオの無礼な若者に「あの子に礼儀と歴史を教えてやって!」という台詞に溜飲が下がる思いがしたものだ。その才知、大スターとしての自負が迸る芝居だった。圧巻は、やっぱり二階から降りてくる最後の演技。狂気の世界に入ってしまったノーマ。「欲望という名の電車」でのブランチに共通する。宝塚歌劇での舞台で大階段から降りてきた時の安蘭、豪邸の二階の階段から「さあ、見て、私を」といい放つノーマ。そう言えば、宝塚時代、彼女は「雨に唄えば」のドン・ロックウッド役で無声映画のスターを演じていたっけ。「天秤座の安蘭は好きよ」。
それはともかく、執事マックス役の鈴木綜馬は巧いなあ。彼に外れは、ない。
宝塚歌劇にとって喜ばしい話題の一つが今年度の第37回菊田一夫演劇賞だった。柚希礼音、瀬奈じゅんという現役の生徒、またOGの2人が同時に演劇賞を受賞、その授賞式でともに晴々とした笑顔が印象的だった。
柚希の受賞は「オーシャンズ11」のダニー・オーシャンの役の演技に対して、瀬奈は「三銃士」のミレディ、「ニューヨークに行きたい!!」のリサ・ヴァルトベルク、「ビューティフル・サンディ」の三枝ちひろの役の演技に対して。生徒の正装姿でお礼の挨拶をした柚希。「宝塚歌劇団星組の柚希礼音です」と、まず自己紹介。ここが新鮮な好印象。「上演前からプレッシャーを感じていました。というのも映画では、私の憧れるジョージ・クルーニーが演じた渋い役どころでしたから。大変光栄な賞をいただき、これを機会に宝塚を楽しみに(お客さまが)来てくれるよう精進します」
スラリとした身体にドレスを纏ったのが瀬奈。さすがに落ち着いた雰囲気だが興奮気味は隠せない。「宝塚に入学して昨年で20年。でも女優としてはやっと3年目に入りました。この賞に恥じないようにしたい」
2人にとって光栄であり、今後が大切なのは充分理解しているのだろう。1976年度の第2回では宝塚歌劇団自体が〝ベルばらシリーズ〟で特別賞受賞。個人では浜木綿子、鳳蘭、小池修一郎といった大先輩たちが演劇大賞を受けてきた。胸が引き締まる思いなのだった。
ちなみに表彰状のほか、正賞の記念楯、副賞の金50万円を受けた。
OGの安奈淳が今年度の第33回松尾芸能賞で演劇部門の優秀賞を受けた。
まずはその受賞理由。
「宝塚歌劇団のトップスターとして一時代を築き、退団後難病と戦い、それを克服しながら女優として活躍。平成23年には、シアタークリエ公演『姉妹たちの庭で』で秘密を抱きながら独身を通してきた初老の四女のアリーの心理と苦悩をきめ細かい演技で表現して観客に感銘を与えた」
雪組への配属から星、花組へと移るたびに成長したが、オールドファンなら星組時代は鳳蘭、大原ますみとの〝ゴールデントリオ〟、また花組時代では大ヒット作「ベルサイユのばら」のオスカル役。月の榛名由梨、星の鳳蘭、雪の汀夏子と共に〝ベルばら四強〟と呼ばれたのは懐かしい思い出だ。
伝統芸能や大衆芸能の出演者の受賞が目立つ松尾芸能賞だけに、宝塚歌劇の関係者の受賞は多くはない。平成元年の第10回に上原まりが優秀賞。これが最初。以下、植田紳爾氏や麻実れい、大地真央、安蘭けい、柚希礼音、淡島千景、大空祐飛が演劇賞、新人賞、特別賞を受賞し、大賞は平成22年の第31回に鳳蘭が受けたのみだ。 「生きてて良かったなと思います。賞は初めて。どうしていいか」。贈呈式で壇上に立った安奈。万感の思い、喜びが伝わった。おめでとう、おトミ。
東京生まれ、団塊の世代。ジャイアンツ情報満載のスポーツ報知で演劇を長く取材。演劇ジャーナリストに。現代演劇、新劇、宝塚歌劇、ミュージカル、歌舞伎、日本舞踊。何でも見ます。著書には「名優の食卓」「新・東海道五十三次」「それでも俳優になりたい」。鶴屋南北戯曲賞、芸術祭などの選考委員を歴任。毎日が劇場通い。